照れながら 指輪をはめる。 −ロイエとオーガスト−


 見つけたのは、小さな指輪。
 小さいといっても、男である自分の指より細いというだけで、一般的な女性サイズだ。
 それには、貴族が好んで使う小ぶりだが輝きのよいダイヤモンドが付いていて、一目で結婚指輪だとわかる。
 随分と古いものらしく、石の輝きは失われていないものの、金属部分の色が少しくすんでいた。
 そしてそれは、指輪用のつくりの良い装飾箱に、まるで宝物のように大切にしまわれていて。
「なぁ、これどうしたんだ?」
 オーガストは、好奇心を抑えきれず、引越し作業中の部屋の主に声をかける。
 教科書類を整理していたロイエは振り返ると、彼の手の中に納まった箱に少し驚いた顔を見せた。
「なくしたもんだと思ってた……どこにあった?」
「そこの本棚の後ろ」
「何かの拍子に落ちたんだな」
 納得した顔で、ロイエはオーガストから小箱を受け取る。
「これは、祖母の形見だ」
「何? お前、ばーちゃんっ子だったのか?」
「……別に、そんなつもりは無いけどな」
 ロイエは苦笑しながら箱から指輪を抜き出す。
 そして小箱を手近なベッドサイドに置くと、そのままベッドに腰を下ろした。
 オーガストも、彼に近づき、指輪を……その上についた宝石を興味深そうに見る。
「綺麗だな。何十年も経ってるとは思えねぇ」
「ダイヤだからな」
「触ってもいいか?」
 うずうずしている子供のようなオーガストの様子に哂いながら、ロイエは徐に友の左手を取った。
 そして、冗談交じりに、恭しくその薬指に指輪を嵌める。
「やっぱり、奥までは入らないな」
「当たり前だろ? てか、抜けなくなったらどうすんだよ」
 突然の自体に目を白黒させるオーガストに、ロイエはニヤリと笑って答えた。
「その時は、俺がお前を嫁に貰ってやるよ」
「誰が嫁だ」
 すかさず返るツッコミ。
 そして二人は、照れを誤魔化すように口元を綻ばせたまま顔を見合わせ、どちらともなく声を上げて笑ったのだった。


 卒業間近の寮の一室。
 新しい春は、もうすぐそこまで来ている。



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