ふざけて 匂いを嗅ぐ。 −アイゼイヤとユーデクス−
ふわりと香る嗅ぎ慣れない匂いに、ユーデクスは目を開ける。
夏の森の木陰。
爽やかな緑の香りに混ざる、甘い…花の香りだろうか?
匂いの元は探すまでもない。
見上げれば、羽音と共に舞い降りてくる一人の天使の姿が視界に飛び込んだ。
白い天使。
何度視界に入れても見飽きる事のない、美しい天使。
ユーデクスにとって、何よりも自慢の、最愛の友であり、双生の半身。
その天使が今、甘やかな香りを纏って傍に降り立ち、香りに負けないほどの優しい微笑みを向けてくれる。
「起こしてしまったかい?」
「大丈夫だよ。おかえり、アイゼイヤ。
地上に、降りていたのだろう?」
微笑んで言えば、アイゼイヤは笑みを深めながら傍に腰を下ろす。
「わかるかい?」
「天界に気配がなかったし……何より、良い香りがするからね」
「良い香り?」
指摘され、アイゼイヤは己の腕の匂いを嗅ぐ。
「ふむ。何も感じないが」
「自分ではわかり辛いのかもしれないね」
笑いながら、ユーデクスは友の肩に顔を寄せる。
羽毛のように柔らかな髪に鼻を寄せ、その香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「うん。良い香りだ。花のような甘い香りと大地の……太陽の香りがするね」
ユーデクスの評価に、アイゼイヤは目を細めた。
「あぁ、なら、地上で羽を休めた時に移ったのかもしれない」
梟に擬態して地上に降りた際、留まった枝の近くに、香りの強い白い花が沢山咲いていた。
あの花は、確か。
「沈丁花、だったかな」
「ジンチョウゲ……こんな良い香りを出すのだから、さぞや美しい花なのだろうね」
見てみたい。
そう微笑むユーデクスの表情に目を眇め、アイゼイヤは甘やかに微笑む。
その表情を見たユーデクスも、同じように優しく穏やかな表情で微笑んだ。
「でも、一緒に見に行ったら、君を見てばかりで、花が視界に入らないかもしれない」
君の方が、綺麗だから。
そう臆面もなく言い切るユーデクスに、アイゼイヤは呆れたような、何処か喜びの滲んだような、慈愛に満ちた笑みを浮かべたのだった。
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