1/1

「友達……ではないよね」


 映画館の帰りに突然声を掛けられて、女の人にキヨとの関係を問いかけられた。

 そしてオレは、友達という言葉に頷けなくて、頷きたくなくて、気がついたら否定していた。

 途端、目を丸くする女の人。

 そりゃそうだよね。

 今、オレはキヨの腕に自分の腕を絡ませて、キヨの片腕はオレの腰を支えていて。

 そんな密着度で、友達じゃないといわれたら、行き着く場所はひとつだろ う。


「恋人でもないかな」


 固まった空気を引き裂くような、冷静で真っ直ぐな一言。

 女の人もオレも、ハッとキヨを注目してしまう。

「あ、あぁ。そうなの? でも、随分と仲よさげだよね?」

 ホッとしたような女の人の言葉に、キヨは笑顔で頷く。それが、なんだか切ない。

「あの映画で、コイツ、腰抜かしたんですよ。だから、支えてやってるんです」

「ひっどい! そこまで言わなくてもいいじゃないか!」

 けれど、キヨの軽口に乗るように、笑って言葉を重ねた。

 軽くなる空気。

 オレの気持ちだけが、軽くなりきれずにいる。

「本当に仲いいわね。親友ってヤツかしら?」

「そうですね。それより、何かの取材ですか?」

「えぇ。映画館に来る人達の取材なの。友達同士とカップルだと見る映画が変わるでしょ?」

「まぁ、それぞれだと思いますけど。ただ、やっぱり友達と行くなら恋愛映画は勘弁したいな」

「そうなんだ。他に、友達同士でどんな映画を見に行くの?」

「やっぱりアクションかSFですね」

 優等生なキヨの笑顔。カッコイイから、ドキドキする。

 女の人なら、尚更そうに違いない。

 けど、あんまり笑わないで、なんていえない。

 だって、オレたちは、恋人じゃない。

「タカ? 調子悪い?」

「ん? ……平気だよ」

 いつの間にかかけていた体重。

 腕の重みに気付いたらしいキヨは、優しい言葉を掛けてくれる。

 そんなキヨに心配かけないように、オレは笑って体を離す。

 すると、キヨは眉を顰めて女の人の方を向いた。

「すいません。俺たちこれから用事あるんで」

「あぁ、ごめんなさいね。協力してくれてありがとう」

「いえ。それじゃ」

 短い挨拶を交わして、オレを支えるように歩き出すキヨ。

「無理すんなよ。とっとと飯屋、入るぞ」

「うん」

 ちょっとそっけない口調は、心配の裏返しだったらいいのに。

 そんな女々しいことを考えながら、オレは、腰を抜かした振りをしてキヨにほんの少し、体を寄せた。


 コレくらいなら、恋人じゃなくても許される……ことを、願って。


 戻る