あたしの愛し方は男をぼろぼろにするのだと、友人の一人は言った。

──心身ともによほど頑丈な人間じゃないと、あんたの相手は無理だってば。

長い付き合いの友人だけに、その言葉はけっこう堪えた。胃のあたりをアッパーカットで殴られたら、きっとこんな痛みだろう。
もさもさした感触の白菜をまな板の上で切りながら、何故だかひどく淋しくて泣けてきた。泣いたところで、慰めてくれる人間なんているはずもない。恋人とは一月前に別れたし、友人は大抵が彼氏持ちだ。
苛々する。相手が自分より幸せだとは限らないのに、自分が欲しい何かを持っているだけでひどく羨ましくなってしまう。間違っているとわかっていても、手放すことのできない感情。だからこんな時には、一人でいなくてはならない。彼女たちからの慰めがどれほど心からのものだとしても、あたしの心は淋しくなるだけだから。
だからあたしは、ただただ野菜を切りつづける。大丈夫。まだ軽い。魚を下ろし始めたら重症だ。
大小様々な骨が、不可解に組み合わさったあの生き物。包丁で、指先で、それを少しずつ切り開き、解体していくあの作業。夢中になって、導き出される思考の放棄。それを求める度合いが低いだけ、あたしはまだ大丈夫だ。

愛して、触れて、この手に抱いて。

結局のところ、介在する感情の種類が違うだけ。
魚と男と、そして野菜。
動作の対象が違うだけ。

愛して、触れて、この手に抱いて。

最後にばらばら。──つまりは同じ。
慈しむのは壊すこと?

触れば撫でて、舐めては噛んで。

幼いあたしがぼろぼろにしたのは、あの白いぬいぐるみ。

撫でては触り、噛んでは舐めて。

手を伸ばせば、届く範囲にあって欲しい。片時も離しはしなかった。そしてやがては、耳を失い、目を失い。
結果を忘れ、満たされる過程だけを求める子供は生きていた。
そして、だから、今も。
あたしは白菜を切っていく。細かく細かくどこまでも。調理台の上から溢れた白菜が、シンクの中へと落ちていった。
どうやって食べよう?こんなに小さく切ってしまって。
あたしの両の瞳から、乾いたはずの涙が再び流れ落ちていく。
何をするにも、壊してばかり。
あたしはそう。いつだってそう。
壊す気なんて、少しもないのに。

切って、砕いて、放り込んで。
煮えていく野菜を見つめていた。

ごめんなさい。
あたしはあなたを、きっと食べない。
どうしよう。
こんなにしてしまって。
それでも。ほら、見て。
あなたを小さく切り刻み、あたしの心は満たされていく。

甘辛い匂い。食欲を刺激する匂い。
だけどおなかは空いていない。
平気。大丈夫。まだ軽い。
今はこれで、まだなんとか満たされる。

愛して、触れて、この手に抱いて。
触れば撫でて、舐めては噛んで。

出来上がった白菜の煮物は、鉢の中で白い湯気を立てている。あたしはこれを食べられない。
もうおなかはいっぱいだから。

愛して、刻んで、忘れさせて。

そしてあたしはこの夜を乗り切るだろう。

         どうか、どうか、おやすみなさい。

触れて、刻んで、舐めては、噛んで。
砕いて、抱いて、愛して、愛して。

       ──また明日。

《fin》