フリージア談話

 

 普段は敵キャラとして出てくる女モンスターや娘たち。そんな彼女の日常の一幕と言うのは、実はプレイヤーの人には思いつかないもの。
 今回は小話を幾つか纏めようかと思いまして、かように参上いたしました。ぜひ、貴方様の琴線に触れることがありましたら、今後のご来場を何卒お願いいたします。

 ああ、失礼いたしました。私は特殊な力を持った、或いは何の特殊能力も持たない「街エリア」の支配人を務めております。名前ですか? いえいえ、名乗るようなものではございません。この街に住むものはみな職業や自分の特徴をなす役職を呼称としております。もし貴方様が甘くも優しい戦闘で勝利なさった場合なら、きっと名前を尋ねられた者はかつての自分の名前を教えることでしょう。
 おや、なぜ個人の名前を使わないのか、ですか。お客様はここには初めていらした方なのですね。ではここで簡単にこの街に限らず全てのエリアでの決まりごとと、なぜこれらのエリアが生まれたかについてお教えいたしましょう。




 まずは個人の名前をなぜ使わないのか。いたって簡単なことです。RPGやファンタジー世界でスライムやゴブリンの個人名を見たことはありますか? 仲間にしたときや特殊なキャラ以外では、全て種族名のみでしょう。つまりそういうことなのです。
 詳しい理由については最奥部のエリアの方々にお聞き下さい。私とて支配人として呼ばれた身ですので、必要以上のことは知らないのです。
 進んで自らの本名を語る者はおりませんが、名前を尋ねられれば答えるでしょう。もっとも、街のナンパのようなものですからすぐ教えてくれるとは限りらない上に、態度が悪ければ口も開かなくなるでしょう。他のエリアもそうですが、この世界にいるのは基本的に女の子や女性たちだけ。繊細な心の持ち主には、優しい接し方こそが最大の武器なのです。


 次にエリアについてですが。この世界は元々、人々の願望が集まって生まれたとも、他の異世界でのえっちモンスターが集まって生まれたとも言われています。他のエリアでの詳しい事情は存じませんが、この街エリアについてはお答えできます。

 街エリアでは女性のみならず男性の姿も見受けられます。これは女性が体を売りにするだけでは生きていけないからです。モンスターであれば人間の精液だけあればいいというものですが、このエリアにいるのは特殊な能力を持ちながらも全て人間です。ですから当然食事も必要となります。
 しかしこの世界での女性の本業は性行為です。農業等の職業を持つ女性や調理をする女性もいますが、基本的に男性が食糧を生産します。

 このエリアは他のエリアと違い、性行為により男性を満足させた場合は給料が支払われます。完全歩合制です。監視官が46時中エリア内全てを把握しているので、漏れはありません。
 その為にここでのお金を求めて各地から出稼ぎに来た少女や、売られた少女などが集まってきました。また薬草などの費用が欲しくなった魔術師や小遣い稼ぎの剣士。軍隊の知名度を上げるために兵士が送られることもあれば、くのいちの修行場として選ばれもしています。

 とにかく一定以上若い女性であれば既存の役職や職業が当てられます。処女や素人であっても問題ありません。この世界での実力が決められていますので、処女で未経験の剣士であっても「この世界で使えると決まっている」性技術が自然と使えます。
 平たく言えば、マッチ程度の火の術しか使えない魔術師でも性魔術に特化した魔術師と同等の力と技が身につくのです。……他にも、この世界では「処女」という役職につかない限りは非処女になります。そのため処女を散らしたくない少女たちもこの世界では散らされることがありません。処女としてこの世界にいる場合は、常に処女膜を破ることになるためあまり数はいません。


 どうして男性がいるのかわからないと? ああ、申し訳ございません。説明不足でした。先ほどの通り、女性は全てが本職を性行為でして、副職として他の仕事をしております。その為に生産に携わる数が消費する数に比べて圧倒的に少ないため、この街にいる男性の方々に畑や牧畜をしてもらっているのです。

 この世界は広さに限りがなく、ポートビルというテレポートを行う建物で別の街へと移動できます。今いるこの街は主に娘シリーズと呼ばれる、若い娘がほとんどの地域です。他の街には職業として特殊技能を得た女性がいます。その他の街の中に、男性だけの街もあるのです。食料はそこで生産されています。
 男性の方々は畑仕事などに精を出し、出来上がった作物の量に比例して食事が出来ます。性行為については自由です。
 貴方様も働きたいというのですか? 残念ですが、その条件を満たしていないためご要望は聞き入れることが出来ません。


 ここから帰れる事が不思議ですか? そうでなければ小遣い稼ぎに気軽に足を運べません。この世界に入った時点で基本的に処女ではなくなり、この世界を出ると処女に戻るのです。戻り方は私の方まで書類を提出された場合、今までの給金を渡して外の世界へと返します。もちろんこの世界に来た貴方様のような男性は街の各地にあるポートビルですぐに出ることが出来ます。


 他にご質問はありませんか? え、ああ成る程。ご友人がここを遊郭の様だと仰った事について疑問がおありなのですね。
 御察しの通り、ここでは性行為の代償として娘たちにお金が支払われます。しかしさらに奥のエリアへ進もうとするならば、ある条件を満たすことが必要なのです。

 街にはそれぞれ数名、他の同名の娘と違う能力の持ち主がいます。例を挙げますと、比較的この街でも強力な援交娘の中にキリカという娘がいます。その娘に勝つと、監視員が一つポイントを数えます。スタンプのような物ですね。全てのスタンプを揃えれば次のエリアにいけます。
 次のエリアに進むためには、そのエリアの最高責任者、あるいは管理権を持つ者と戦い勝利を得なければいけません。

 ……はい、このエリアでの最高責任者は私でございます。次のエリアに進むと言うことでありましたら、どうぞ私との戦闘に勝利くださいませ。


 他にもまだ? この街で働く条件、ですか。簡単なことでございます。この街で一度でも負けるのです。そうすれば次のエリアへ進む権利を失い、このエリアに滞在する権利が得られます。
 負けるというのはもちろん、相手より先に自分が果てることです。

 ……おや、話が違うというのですか? 単に性行為をするだけでしたらこのエリアでも十分であるため、多くの方がそこを勘違いしていらっしゃるのでしょう。
 この次のエリアで負けた場合は、そのエリアまで進むことが出来ます。最後から1つ目のエリアで断念して、思うが侭に女体でおぼれると言う人生もよろしいでしょう。

 この世界では歳をとることがありません。永住している方が多いのもそれが理由です。そろそろ人が増えすぎたため、また街を増やさなければいけません。この街にはまだ「市長」も「議長」も、そのほかの治世の方々もいらっしゃらないため、全て私一人が取り仕切っているので本当に大変です。


 ……どうやら貴方様はこのエリアに安住せず先へ進む冒険者のようでございますね。その意気、決して費えぬことをお祈りしています。

 最後の質問ですか。……ええ、確かに何度かそれらしいことを申し上げましたが、既存の役職以外の役職が増えることはあります。例えば市長の方がここで働きたいと仰られれば、「市長」という職業が増えます。最近有名な「ツンデレ娘」という概念が増えましたので、あるいはそういう役職が増えるかもしれません。
 不思議ですか? そういうものなのです、この世界は。

 それではどうぞ。貴方様の夢が叶いますように。
 



 ……お待たせいたしました。これが私、「支配人」の日常でございます。どこの世界にも「名も無き洞窟」はあります。その洞窟の奥の扉は私の部屋に直結しています。あらゆる世界から秘法を求めてやってくる皆様へこの世界についての説明をなし、送ることが仕事でございます。
 もし武力などで襲ってきた場合はどうするのか、ですか。簡単なことでございます。この部屋にいる限り私には死はございません。私は次のエリアへ進むに十分だと判断することが仕事ですので、果てることもありません。そしてこの世界に不釣合いな暴力を振るう方には必ず制裁が下ります。運が良ければ次のエリアの、運が悪ければ最終エリアの「制裁者」が空間を跳んで現れます。
 そうなってしまえば、むしろ侵入者は悲劇です。彼女たちは人間に対して憎しみをもって、死ぬまで精液を搾り取るのですから。最後まで快楽を味わうことがせめてもの憐憫と言うことでしょうか。

 それではこの世界へようこそいらっしゃいました。私支配人が監視員から伝え聞くこの街の日常を語りましょう。




――――布団娘のある日――――


「うぅ、うっうっ……」
 鼻歌交じりに歩き去る少女とかけ布団に包まる少女。勝ち組負け組み以前におかしな組み合わせである。
「どうして私ばかり服を盗られるんだろう」
 正確に言えば私のような布団娘はどうして服を着てはいけないのだろうか。援交娘は「そういうものだからあきらめてね♪」と実に楽しそうに服を剥いでいく。
「……ぅ」
 その脱がせ方を思い出して顔が熱くなり、布団ごとボールのように丸くなる。本当なら非難すべきなのだろうが、布団の香りを体全体でじかに味わうのは嫌いじゃない。それに、その、あの……援交娘の脱がせ方は上手いのだ。この街でもかなりの実力者と言うこともあって、甘いムードを作るのが上手いし。それに……脱がせながら体の力が抜けるような、その……胸の触り方、とか、他にも……とにかく上手いのだ。
 この街では性行為は仕事。だから彼女は「気持ちよくさせたのだからこれはその代金ね」と服を持っていくのだ。気持ちよくなかったら服は別にいいよ、といつも言われているのだけど……気持ちがよくて蕩けちゃっている間に、全部脱がされるのだから文句も言えない。
「う〜。変な気分になっちゃう」
 私はこの世界に来る前の名前も覚えているけど、「布団娘」としてこの世界にいる間は性格がちょっと丸くなっている、と言うか、ちょっと大胆?になっているような。とにかく口では上手く言い表せないけど、最初に「布団娘」になった子の性格に近づいているらしい。どんな子なのか会ってみたいと思う。きっと、かわいいんだろうなーって。
「あー、だめだめだめ! 私は普通に男の子と一緒になるんだから!」
 なぜか裸の女の子を想像して私は手をばたつかせる。この街は男の人はあまりいない。そもそも女の子自体が多すぎるのとか、街が広すぎるのが原因らしい。
 そんなこんなで、私はいつもどおり道を亀みたいにして歩く。この街はゴミの原因となるものが無いためゴミが落ちていないし、地面もゴムみたいに柔らかい。奴隷娘や私みたいに四つ足で歩く子にも優しい街なのだ。
「この動きにもすっかりなれちゃったなー」
 疲れないことに気づいたのは、「布団娘」としての知識を色々と思い出してからのこと。不思議なことに知らないはずのことを思い出せるのだ。不思議な世界だ。
 その思い出した知識の中に、布団娘はこの格好で歩く分にはまったく疲れないのだという。走っても大丈夫だけど、布団が翻ったりするので蟻とかみたいにちょこちょこと走るのだ。ガラス張りの喫茶店で光に反射した走る自分の姿を見てからは、二度と走らないと決意したのだけど。

 走らないのはべつにそれだけが理由じゃない。もちろん、一番の理由ではあるんだけど。
「あ、また何かあったの?」
 公園の入り口で正座の崩れた座り方……なよっと悲しみにくれている姿の女の子を見つけた。この街でこんな風にしている女の子と言えば一人――というかひと役職、なんだけど――がいた。この世界では役職が同じなら同一人物として扱ったりする。性格や行動パターンが同じだから。それでも行動範囲は割りと一定しているので、同じ人と出会うこともあるのだ。
 この子は私の行動エリア内でよく見かける……不幸娘だ。こういう呼び方は好きじゃないんだけど、悪口みたいに聞こえないのがこの世界の魔法だ。
「ええとね。この柵……」
 他は言わなくてもわかった。この柵を越えようとしたら躓いて転んだ。この子はドジっ娘よりもっと性質の悪い不幸に見舞われるのが運命の子なのだ。条件は不幸さのあまりにここに売られるのが前提らしいという、筋金入りの不幸。公園に入ろうとしたらドジっ子以上の酷い目にあう不幸娘なのだ。
 いつもどおり悲観にくれている不幸娘に近づくと、いつもどおり布団ごと覆いかぶさる。
「うわぁっ!!」
「あっ……」
 これはいつもどおりじゃないんだけど。被さった拍子に膝が入ってしまった。フライングニープレス。痛さにうめく不幸娘に何度も謝る。
「ごめん、ほんっとうにごめんっ」
「いいよ……不幸には慣れているから」
 自分が悪いんだからいいよと慰める不幸娘。けどお約束の一言。
「私ってやっぱり不幸」
「本当にごめん〜〜」
 顔に黒い縦線を幾つもつけていそうな表情に、ひたすら謝り続けた。

 私と不幸娘は仲がいい。二人とも境遇が不幸だからだ。不幸娘はどんなに不幸でも、服だけは大丈夫と言う点が私にはちょっとだけ羨ましかったりする。不幸娘も服を着れない運命にある私には仲間意識があるみたいで、気軽に接してくれる。
「ほんと、布団娘の布団の中にいる間だけは幸せ〜」
「えへへ。私の領域の中だからかな」
 私は布団の中ならちょっとだけ大胆になれる。ぎゅうっと不幸娘に抱きつくと不幸娘も同じくらいの強さで抱きしめ返してくれる。
「布団娘の匂いって、本当にお日様の匂い。いいなー」
「えへへ。もっと誉めてー」
 私は……えと。えっちなことも……嫌いじゃ、ないんだけどね。こうやってお日様の匂いのする布団にくるまれながらぎゅうってしているのが一番好き。一日中こうやっていたいくらい幸せな気分に浸れるのだ。
「そういえばそろそろ来る頃かな?」
「わからないけど、まだ頑張っていると思うよ」
「それもそうだね」
 私達は3人目の仲間の性格についてよく知っている。案の定、私たちが暖かさと気持ちよさにうとうととしている頃に彼女はやってきた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「んーん。お仕事お疲れ様ー」
「今日の成果はどうだった?」
 おいでおいでと布団を少し持ち上げると、待っていましたとばかりに布団の中に入ってきた。
「ちょっとダメかな。今回は腕のいい人が入ってきたみたいで、あんまり勝てなかった」
「そっか……ほら、あったかぬくぬくして次こそガンバ、だよ〜」
「お金、もっと欲しいのに」
 こんなセリフを言うとお金だけの為にこの世界にいるみたいだけど……実はそれ正解。けど動機は切なくなるくらい真面目なんだ。

 この子は孝行娘。体を売ってお金を手に入れたらそのお金を家族へ仕送りするのだ。この子の場合は妹さんが重い病気にかかっているのでその治療費にお金を使っているみたい。他にもお父さんが骨折して暫く働けないから、もっとお金が要るんだって頑張っている。
 どうしてこの3人が仲間かって言うと……孝行娘は家族のためにお金を用意している。そういう時は大抵、家族に不幸なことがあるからお金が沢山必要だっていうのが理由になる。不幸娘は自分だけが不幸になるんだけど、孝行娘は自分以外の誰かが不幸だからこの世界にいるのだ。不幸娘にとっては家族の不幸の方が辛いんじゃないかって心配している。
 三人ともそれぞれ違った不幸を背負っているからか。気づけば三人一緒にいるようになった。互いに同情しているからかな。けど理由はともかく友達が出来ることはうれしい。
「じゃあ今度は三人で行かない?」
「うん。それがいいよ」
 私たち3人はあるときは孝行娘の支援をしたり、またあるときは不幸娘を苛めるような「ふらちせんばん」な人たちを逆襲するために一致団結することもある。他にも不幸娘同士が結束して6人一組で戦ったりするらしい。
 数が増えるとその分だけ一人当たりの持分は減る。けど3人なら3等分と言うことではなくて、勝ったら1/3よりいくらから多い分が給料になるのだ。だから強い人が出てきたら仲間を呼んだりした方がむしろ得なのだ。
「じゃあ……」
「それがいいよ、うん。だって、私たちって基本的に能力上がらないでしょ? だからいくら頑張ってもね」
 この世界では当たり前だけど頑張っても能力は上がらない。上がるのは男の人だけなのだ。この世界では私達はイタズラネズミみたいな雑魚キャラでしかないので、やられたらお終いなのだ。
「けど、なんとか勝ち続けたら希望はあるよ」
「それはそうなんだけど」
 その代わり希望は確かにあるのだ。何人か、何十人か知らないけど連続で勝ち続けることで「昇格」できるのだ。昇格っていうのは、クラスチェンジみたいな物で、今まで頑張った分+αで能力が格段に上がるのだ。昇格したらその子の名前もセットで呼ばれるようになる。
 途中で一度でも負けると、死んだ扱いになるらしくてリセットされるんだけど。
「昇格すればお金も沢山もらえるし……」
「あれって集団で勝っても別カウントでいけるって話は聞いたことあるよ」
「そうなの?」
「うん。今日、援交娘がそれを狙うって言ってた」
「誰と組むんだろう……」
 援交娘……たちはこの街で最初に昇格した娘として他から一目置かれている存在だ。援交娘より技量のある娘はいくらでもいるけど、道具を使うという特技が曲者なのだ。これにより弱くても戦い方次第では強くなれる。 私達は能力は上がらないけど、経験はするのだ。そう言った意味で様々な道具を駆使できる援交娘はこの街で気を許してはいけない強敵としてランクインしているそうだ。
「私達は……この『3人』だよね?」
 こと、不幸に敏感な不幸娘が恐々と口を開いた。言いたいことは私たちにもわかる。自分だけが仲間はずれにされて「他の」不幸娘と組まれないのか不安なのだ。
 ぎゅう、とひときわ強く不幸娘を抱きしめる。
「なにいってるの。私達は友達でしょ?」
「そうそう。不幸三人組はどこにでもあるけど、『私達』はただの不幸繋がりの仲間ってワケじゃないんだから」
「……うぅぅ……ありがと」
 嬉し涙を流し始めた不幸娘を二人でサンドウィッチにするように抱きしめる。

 この世界はただ気持ちいいとかだけの楽園じゃない。同じ人間が沢山いるようなものだから、代わりがいくらでもいるのと同じなのだ。勝負してくる男の人たちは間違いなく、他の……例えば布団娘なら、私と他の布団娘を同じ人間として扱っているのだ。
 会話もあまり無くて、酷い時には押し倒してえっちしてそれで終わりみたいな人もいる。「あー、布団娘は飽きたからそろそろ別の街にでも行くか」なんて終わった後に聞かされたときは、本当に悲しくなってしまったのだ。
「なんだか暗い話になっちゃったね。今日はこのまま昼寝でもしようか」
「うん、賛成ー」
「布団娘のお陰で、昼寝にはこと欠かさないしね」
 何人が入ってもきちんと覆いかぶさってくれる布団に包まれながら、3人は気持ちのいい夢を見るのであった。





 多少暗い部分もありましたが、彼女たちは主に不幸なキャラなので仕方がないと言ってしまえばそれまででしょう。おおむね彼女たちは平穏に過ごしています。しかし絵本や小説の世界ではないため、彼女たちにもそれぞれ個性はあります。
 いざ戦闘となれば彼女たちはそれぞれの役割を担いますが、本質までは変わりません。全ての敵の戦闘方法は共通していても完全に同じではありません。この世界の住民は全て本物なのですから。






――――単にお金が欲しいだけだから――――



「よーし、あとはこれをお店に売って。女の子がまる1日素肌で着ていた服です、っていうフレーズは本当に美味しいね」
 効率よくお金を稼いで、効率よく頂点を目指す。私のようなタイプは勝利に貪欲でないといけないのだ。
「これを売ったら、ブランド品……じゃなくて」
 ブランド品が売っていない世界だと思い出してちょっとだけ落ち込む。この世界ではそういったことにお金を費やすくらいならほかに費やすものがある。
「先行投資って本当はガラじゃないんだけどねー」

 私はこの街にいるレベルの低い女の子……不幸娘や布団娘みたいな連中から取れるだけとって道具に費やすと言う、この世界でもあまり例の無い成長タイプだ。援交娘なんて略の仕方をしているけど、要するに援助交際でお金を稼ぐと言うこの街のシステムそのままの役割を持つキャラクターだ。
 最初に昇格したキリカさんはこの世界が作られてから数日で昇格したのだと言う。多彩な道具を活用し、あっという間に頂点に上り詰めたキリカさんは私たち援交娘にとっては栄光の象徴であり目指すべき目標だ。勝利に賭けるあくなき熱意もそのまま受け継いでいるようで、私たちは互いに牽制し合いながら、あるいは協力しながら頂点を目指している。
 援助交際をしているという意味から私たちが単に軽いノリだけでやっていると思う男たちには悪いけど、私たちはそんな馬鹿男が思うより遥かにシビアなのだ。勝つためには同じ娘シリーズを踏み台にするし、情報交換にも余念が無い。だから私たちは総じてこの世界についても良く知っているのだ。
「それがどうってことでもないけど」
 変に真面目なノリになったので、声を出して無理やり切り替える。
「毎度おおきに」
「あんたは本当にいつもそれねー」
「それがウチのステータスやさかいにな」
 商売娘はなぜか関西弁。といっても関西弁というものを知っているのはこの街でも半分くらい。ファンタジーな世界の人は方言としか取れない。そばかすと眼鏡がちょっとチャーミングな商売娘は、勝つとこの街だけでなくほかのエリアでも商売をしてくれるという特典がついている。
「そーいや、あんたの道具か知らんけど大人の道具を売りにきたにーちゃんがおったで」
「私のじゃないわね。まったくヘマしてくれちゃって」
「ほーほー。そないに大口たたいててええんか? この間は完敗しと…」
「うるさいわね! あー、もう。私たちは先だけ見据えて突っ走るステータスのなのよ」
「はいはい。ところで何買うん?」
「何かいいアイテム無い?」
「せやなー……」
 ごそごそとサンタ……それか大昔の泥棒が持っているような大きな袋の中をごそごそと探し始める。商売娘は「在庫」の物を扱うことの出来る唯一のキャラクターなのだ。アイテムはおろか、食料品でさえ「在庫」を介して扱えるため、この街……いや、この世界では必須の存在なのだ。
 男連中でもご飯を食べないと先には進めないから当然。

 ふとキャラクターのことを思い出す。能力や性格などを一定の基準に当てはめるこの世界の図式だ。使ったことが無くても道具を上手く使うことが出来るのもそれが理由だ。
「問題は、それが性格や行動パターンにも影響があるって所なんだよねー」
「なんや難しい顔して。辛気臭いなー」
「別にいいでしょ。男のいないところくらい素に戻らせてよ」
「後はいっつも苛めとる女の子たちにもか?」
「当然」
「難儀なモンやなー。この世界に来た以上はこの世界のキャラクターに沿った性格になるなんてな」
「そういうあんたはどうなのよ」
「アンニュイな表情も中々そそるでー」
「聞きなさい」
 ぎり、と音がしそうなほど頬をつねると痛さに手をばたつかせる商売娘。
「あたたたた、離しとくれや!」
「まったく。冗談は顔だけにしておきなさいよ」
「ほんと援交娘はSなんやから」
「その属性もあるから奴隷娘も苛めるんだけどね」
「そりゃともかく。ウチは、せやな……くらーしとるんが馬鹿らしゅうなっとったし。なにより本場モンの関西弁なんて、漫才くらいでしか喋れへんやろ?」
「確かにそれは言えているけど」
 現実の街中でここまでこってりとした関西弁を話す人はいない。良くも悪くも時代が変わったということだ。互いに笑ってうなずくと、ふと商売娘が真面目な顔をした。
「あんさん、どんな道具が好みや?」
「いっておくけど実用性のあるものをお願いね」
「ムチとか?」
「それは女王様の武器だから要らない。私たちに合うのは香水だから、それお願い」
「りょーかい。……がんばってな。応援しとるで」
「何か裏はあるんでしょうね?」
「もちろん。ウチのお得意様になってもらうんやから」
 なにいってるんだか。デコピン一つ入れて苦笑する。
「早いとこ素のエリナをきちんとみたいもんやな」
「こっちこそ、あんたの素を見てみたいわね」
 昇格しない限りは名前を言いたくないと断言した商売娘から新しい香水をもらうと、店を出て行った。





 この世界ではキャラクター=同一性であり、これだけならばゲームの敵キャラクターとなんら変わりはありません。他からやってきた娘たちがこのキャラクターを備えることで、能力差の無い平均的な能力を得るのです。
 ですから経験豊富であっても備えるキャラクターによっては逆にレベルダウンしてしまう可能性もあります。

 それとは別に性格という部分でも影響を強く受けます。戦闘時は確実にキャラクターとして行動しますし、普段でも半分ほどはキャラクターとしての行動と性格になります。戦闘時だからといって全てが全て同じではありませんが。
 普段から苛められ続けている……援交娘というのは想像しづらいでしょうが、いることはいます。その子の場合は、キャラクターの影響力を上回る本人の感情により戦闘時でも弱気な態度をとるなど変化が起きます。
 このエリナについても同じことが言えます。キャラクターに縛られたくないという感情が時折「援交娘」としての性格を追いやってエリナ自身の性格が浮かび上がっています。彼女の場合、強い精神力を持つようですのでいずれはキャラクターと言う殻を破り本質を取り戻すでしょう。








――――今日の授業は?――――




「ん〜、やっと終わった」
 学校の授業が終わり皆が大あくびをしている。授業と言っても先生はいない。正確に言えば新任の人がいるけど、新任娘なんていう辺りからわかるように歳はあまり離れていない。
「せんせー、ご飯何か奢って〜」
「ちょっとちょっと、また?」
「奢ってよ〜」
「もー。私の給料全部なくすつもり?」
 大学生くらいなので大人と言ってもいいほどだけど、先生と呼ぶにはあまりにも親しみやすい。実際、大学娘がいる位だから大学生はまだまだ娘の範囲なのかもしれない。
 そうこう言っている間に新任娘が連行、もとい女子高娘たちに連れられていく。
「あなたはどうするの?」
「授業が終わったのだから高校娘は終わり。これから仕事ね」
「あー、そっか。私はクラブがあるから」
「がんばってね」
「うん!」
 勢いを表すのはいいけど。袖をまくるのはちょっとどうかと思う。

 この学校は……というよりこの世界では、時間帯によってキャラクターが変わる。授業を受けている間は女子高娘でも、授業が終われば別のキャラクターになる。例えば私の場合は、生徒会娘だ。
 年がら年中何かしらの行事がある上に、先生と呼べるのは新任娘だけ。授業の進行は委員長娘が補佐する形で、行事については生徒会娘が企画して運営娘が実行すると言う形。正直言って大人の姿は無いに等しいのだ。怪我をすれば保険娘が開放してくれるのだから。
「学校って本当にすごい」
 この世界に来るまでは学校と言う存在は知らなかった。聞く所によるとこの学校は普通の学校と大きく違って大人がいない事や性の授業がある―――のだという。
「ああ。もう来ていたの?」
「私も今来たところなの」
「それじゃあ議題をはじめましょうか」
 集合まで殆ど時間は要らない。皆行動パターンが同じだからきちんと集まり、生徒会長と副会長の娘が取りまとめていく。こんな風に上手くいくのもまた、この世界ならではだと聞く。
「そこの貴女。きちっとなさい」
「はいっ、すみません」
「まったく。生徒会室は治外法権だからといって気を緩めないでくださいな」
 治外法権という言葉もここで知ったことだけれど、それはさておき。この生徒会室でだけは本当の自分を出すことが許されるのだと言う。生徒会娘となってまだ2ヶ月だからか、あまりそういう裏事情は詳しくない。
「どの道今週末までにこの行事について考え直さなければならないのです。余裕と言う物は時間が余ってこそ使える言葉であることを肝に銘じなさい」
「ぅ……はい」
「では今回の議題である『校内サバイバル鬼ごっこ』についての話し合いを始めます」

 疲れた、いや本当に疲れたのです。意味があるのか無いのかわからない遊びに対しても本気を出すのがウチの流儀としても疲れた。
「お疲れ様」
「あ、いえ、ども」
 机にへばりついているのは疲れたため。既に生徒会長娘はいなくて、副生徒会長さんと二人きりになっている。もらった紅茶を飲むために体を起こす。
「少しは慣れてきた?」
「いえいえ、ぜんぜんだめです」
 手を振って見せるとよほどおかしかったのか、おなかを抱えるようにして笑っている。
「ああ、いえ。気を悪くしたのであれば謝るわ」
「そうじゃなくてー、えーと。生徒会長娘さんと一緒に帰らないんですか?」
「まさか。あの人は学外へ出れば別のキャラクターになるのだから」
「そういうものですか。副生徒会長娘さんもそうですか?」
「私は……不器用だから、これだけしかできないの」
 夕日のためか、変に色っぽく見える。本人にその気が無いのはわかっているけど。
「それと二人きりのときくらいは名前で呼んでくれない?」
「名前知らないです」
「あら、そういえばそうね。私はリエコ。貴女は?」
「マルポです」
「ああ……元の世界では何をしていたの?」
「ええとですね。人の物を盗んだりいろいろです」
 他にも人を殺したりもしたけど、それを話すとよくないらしいので省く……って、わぁ?!
「あ、ああの、リエコさん……?」
「……」
 なんだか抱きしめられてしまった。
「ええと?」
「ごめんなさい。そんなことを聞いてしまって」
「いえ、あのー」
「私っていつもそうなの。普段は上手く物事を進めているように見えるけど、プライベートのときはもう滅茶苦茶で」
 プライベート……私生活だったかな。それはよくわかる。仕事のときとまるで違うから。
「だから、失敗しないようにって……」
「あのー、リエコさん」
 ちょいちょいと肩を突付く。こちらの声音に何か気づいたのか、抱きしめる力が緩んだ。と、思う間もなくいきなり副生徒会長娘さん(長いのでリエコさんにする)が離れた。
「え、ああ、あ、あ、あ、ああ、あ、そ、その、あの、これは」
「リエコさんリエコさん」
 慌てているようなので紅茶カップを手渡す。
「あ、ありがとう……ひゃあ!?」
「慌てすぎですよ」
 熱々の紅茶を一気飲みするなんて、我慢大会じゃないですか。呆れているのがわかったのか、慌てて後ろを向いた。
「私ったら……」
 もじもじしている所がかわいいなんて思ってしまうのはダメでしょうか。自問自答したくなるのを抑えて、ひょいと顔を覗き込む。
「……」
 えーと。泣きそうな顔になっています。どうしましょう。

「……」
「……」
 購買部で買ったカフェオレのパック二つを片手に中庭でぼーっとしてから数十分。日が落ちて下校時間になっているのに帰らない二人組は、まだ学生服のままなのです。生徒会室の鍵をかけて出てきたのはいいんですけど、リエコさんが無言のままなので困った物です。
「……」
「……」
 おまけにそろそろ帰りましょうと言ってみたら頷いてくれたのはいいですけど、そのままずっとついてくるのです。確かリエコさんも寮生でしたっけ。
「あのー、寮につきました」
「……」
 こくってうなずくのはわかりました。
「ところで、これ……ああ、いえ、なんでもないですよ」
 また泣きそうな顔になったので慌てて手を振る。
「……えーっと。では行きますね」
「……」
 キャラが変わっちゃったんじゃないですか? いえ、まぁ副生徒会長娘としての領分は終わったのかもですけど。
 袖を指先で掴んだまま迷子みたいな顔って初めて見ましたです、はい。

 部屋になぜかリエコさんがいます。ちょこんと座っている姿はいつもの凛とした顔じゃなくて可愛らしいのですけど。
 制服を脱いで私服に戻った私は非戦闘状態というやつでして。数時間だけしか持たない素の状態らしいのです。割と生徒会室でも普通なのでこれもよくわからないのですけど、このさい放っておいて。
「リエコさんリエコさん」
「……」
「一緒に寝ませんか?」
「……!?」
 びくりとこちらをむいたリエコさん。はい、と手渡したのはカロリージュース。
「その前にご飯です」
「あ、はい」
 この世界特有の、そこそこにおいしくて栄養たっぷりで太らずに、朝になるまでお腹が空かない便利な食べ物。他の人が言うにはご都合主義なのだそうです。細かいことは気にしないのが一番。
 二人そろって10秒足らずの晩御飯を食べ終わると、急に眠気が。生徒会の仕事をするといつも眠くなるので、家に帰るとくたくたなのです。
「リエコさん?」
「あ……マルポ、さん」
「やっと名前で呼んでくれました。ささ、寝ましょう」
「え、あの、あの、ちょっ、まだ心の準備が……」
 なぜか嫌がる、けど本気で抵抗しないリエコさんをベッドに引きずり込むと、布団を被る。
「おやすみなさい〜」
「え、ああ、は、はい。おやすみなさい」
 大きめベッドはフカフカなのです。元布団娘の布団だからフカフカいい匂いなのです。明日もあんまり忙しくない方がいいなーと期待してみるです、はい。
 ……無駄な期待だとわかってもやめられないのです。



 本質について疑問がおありでしょうが、今の時点では単に「キャラクターという殻を抜け出した」と記憶してくださいましたらそれで十分でございます。
 戦闘の場合などはキャラクターに支配されがちですが、かといってそれが全てではありません。この世界は概ね裁量が強く認められるようで、自由に出来る空間と言う物もあります。そのため、生徒会室での戦闘はこのエリアにおいてかなり厳しい戦いになることでしょう。
 他にも自分の部屋と言う物がありまして……布団娘も一日中外にいるわけではありません。

 また布団娘から他の職業へ変わることも出来ますが、基本的には学内能力検査の合否や職業面接で決まります。妙に現実的だと思われますか?
 まだ生まれたばかりの世界ですので、試行錯誤の段階だと思ってくだされば幸いです。
 


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