「おっねっ、え、っ、ちゃ――――ん!」
「うわっ!?」
どたっ。
ごろごろごろごろ、どった――――ん。
「あははっ! 楽しいねっ!」
「イリヤ! レディがこのようなことをするものではないぞ!」
「あら、アーチャー。だったらアーチャーも改めないとね」
「?」
凛のうっかり、キャスターの魔術、ギルガメッシュの蔵の秘術――――ああどうでもいい。
それによって女体化してしまったアーチャーの胸に顔を埋めながら、イリヤは顔を上げる。
「言葉遣いがなっていないわ。そんな男みたいなのではなく、もっと淑女らしく。そうでしょう?」
「わ、私は男……」
「今は女の子だわ」
淑女でしょう、と重ねて言うイリヤに、アーチャーはぐったりと床に転がった。傷心した。
「あら? どうしたの、アーチャー」
だってあなたまるでわたしのお姉ちゃんみたいなのに、とイリヤが問いかけるが、アーチャーが返事をすることはない。
「む」
するとイリヤはふくれっつらをして、もにっ、とさらにアーチャーの胸に……胸の谷間に顔を埋めて。
「こ、こら、イリヤ!」
「お姉ちゃん!」
でしょう、と先程自分が「おねえちゃん」とアーチャーを呼ばわったことをきっとからっと忘れてイリヤは言う。女体化することですっかり身長も縮み、イリヤほどではないが小柄になってしまったアーチャーは心の奥底がざわっとするのを感じる。
なんていうか、その。
怖い。
「ほら、ほら、ほら。お姉ちゃんって呼びなさい、アーチャー」
「そ、そのような……!」
「あら、何? アーチャーったら、わたしが怖いの?」
しろいこあくまが こうりんした!
ある意味あかいあくまよりも恐ろしいだろうか……。
「こんなにかわいくてプリティーでキュートなお姉ちゃんなのに!」
「いや、意味が全部一緒……」
「アーチャー?」
イリヤがにっこりと微笑む。アーチャーは思わず固まった。
「反論は、許さなくてよ?」
無邪気でありながら妖艶な笑み。白くさらりとした髪をかき上げ、赤い瞳を細める。
「それに、日頃は弟扱いなのに。今はお姉ちゃん扱いなのよ? それのどこが不満なの?」
「いや、性別の……」
「そんなもの」
家族愛の元には関係ないわ!
「え、ええー……」
「だから、ねっ。アーチャー!」
むにっ。
非常に弾力溢るる音と共にイリヤがアーチャーの胸の谷間に顔を埋める。「んっ」途端に声を上げるアーチャー。
「アーチャーの胸ったら、マシュマロみたい!」
「あ、んっ、こら、擦り付け、る、な、やめ、くすぐった、い、」
「なあに? アーチャーったら初心なのね」
少女、もしくは幼女の見かけのイリヤにいいようにされて、アーチャーは場違いな倒錯を感じていた。
「や、あっ」
「ふふ、まるで本当に女の子になっちゃったみたい。ねぇ……」
もに!
「!?」
「お姉ちゃん、駄目でしょイリヤって言って?」
「!?」
「駄目でしょイリヤ、って言ってくれたらやめるわ。あ、もちろんすこぶるお姉ちゃんっぽくね!」
「!?」
「アーチャー?」
声が出ないの?
尋ねてくるイリヤにぶんぶんと首を振る。そうすれば彼女はにっこり笑って、
「そう。よかった!」
いやいやいや、よくない!
いっそ声が出ないような魔術をかけられていた方がよかった。それなら逃げられたのに。
「ほら、……アーチャー」
お姉ちゃん、と甘い甘い声で言われて。
いつの間にか、声帯だけが自由になるように緊縛されて。
アーチャーが無事にミッションコンプリート出来たかどうか。
それはまた、別の話。



back.