「いやあ、今日も暑いな!」
チラッチラッ。
「こんなに暑いとほら……何だ? クールビズ?っていうのをしたくなるよな!」
「くうるびず?」
私はマスターに問い返す。聖杯に聞いてみたが生憎対応していなかったので、彼に聞くしかなかったのだ。
すると彼は鼻息も荒く食らいついてきて、バッ、と何かを差し出してきた。こ、これは……!
「これを着るんだアーチャー!」
「だが断る」
「何故!」
何故って。
そんな布地面積が少なすぎる衣服など着れたものか。恥じらいというものを持っている人物なら誰だってだが断るはずだぞ?
しかも足の部分はタイツを全て取っ払ってベルトオンリーになっている。何だこれは。破廉恥な。それと臍が丸出しではないか。何なんだこれは。
「特注で作らせました!」
「馬鹿か君は」
今までで一番直球勝負の台詞を放ったのではないだろうか。
「マスター、進言させてもらうがこれはさすがに防御力が低すぎる。守れる箇所がほとんどない」
「大丈夫! おまえなら大丈夫だ、アーチャー!」
「いやいやいや」
過度の期待はご遠慮願います。
「褐色の素肌にムチムチに食い込むベルトとかいいよね!」
「前々から思っていたが君は高校生にしてはマニアックだな?」
「死ぬときは前のめりになって死にたい!」
「いや、意味がわからない!」
本当にわからなかった。それに過度な臍出しは一歩間違えば腹を壊す。良くない、それは良くない。
サーヴァントが腹を壊すのかと?それはまた別問題だ。心の問題だ。心が訴えてその結果、腹を壊すのだ。
「大体おまえは着込みすぎなんだよ! 見てて暑苦しい!」
「そんなことを言われても、これが私の概念武装……」
「言い訳なら署で聞こう!」
「いつから君は刑事になったのだね!?」
「たった今から!」
「嘘だッッッッ!」
…………、くだらない時間を使ってしまった。
「とにかくそのような露出度の高い服は着られない。残念だが処分するなり部屋に飾るなりしてくれ」
男子高校生の部屋にこのような服が飾ってあるというのも嫌なものだが。変な誤解を受けそうな気がするがまあ……あながち間違ってもいない。
「じゃあ!」
そう言ってマスターが背後から取り出してきたものは。
「これならどうだ!? 露出度も高くない! しかも涼しげクールビズ!」
「……浴衣?」
「そうだ!」
あ、よかった。合っていた。
しかし。
「だが断る」
「二度目ッ!?」
「このようなバサバサとした服を着て戦えると思っているのかね。裾も帯も何もかも邪魔だ」
「あ、それは大丈夫」
マスターはへらへらと笑いながら、


「どうせこの先おまえが誰かと戦うことなんてないから」
「シャラップ!」


後頭部に思いっきりかました。きついのを。
結果マスターはもんどりうって苦しんでいたが知るものか。反省しろ。戦うために召喚されたサーヴァントになんてことを言う。
「ぐ……ぐぐぐ……クールビズ……クールビズ……」
「マスターよ、私はサーヴァントだ。暑さなどに体調を左右されることなどない」
「違う……」
「?」
ぼそぼそと何か聞き取り辛い声で言っているので顔を近付ければ、


「僕が、僕たちが楽しみたいんだッ!!」
「ゲラップ。」
私はマスターの首根っこを掴むとつかつかと部屋のドアの前まで歩いていき、空いた方の手でドアを開けて彼をそのまま外へと放り出した。そして鍵を閉める。
すっきりした、と爽やかな笑みを浮かべて額の汗を拭う私の耳にドンドンと激しくドアを叩く音が聞こえてきたがまるっと無視した。
「半裸〜浴衣〜クールビズ〜」
「…………」
日頃からこのくらいの根性を見せてくれるといいのだがな。



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