道端で拾ったといえば、犬猫の類いだろう。だがこれはそんなものじゃなかった。
「あー……ってェなァ、おい……」
噛まれた指を見てため息ひとつ。
噛み痕なんて可愛いもんじゃない。その指は薄皮一枚でかろうじて繋がっていた。
“それ”は恋仲であるかの弓兵に姿形は似ていたものの、中味が、気性がまるっきり異なっていた。
「アァ……ウゥ……」
漏れる声。あんまり暴れるので腕と足それぞれ一本ずつの関節を外してやったのが余程お気に召さないようだ。怪しげな筋肉弛緩剤を打たなかっただけましだと思え。
ぎし、と鳴る安い床。組み敷いた体はやはりあの弓兵と寸分違わず同じものだ。
「アァウ……」
それにしてもこの獣、人の言葉を解しているのだろうか。白痴の類いか。
「グアゥ!」
露出度の高い、というかほとんど布を纏っただけの体に手を這わせれば吠えて食いつこうとしてくる。
「っと」
また噛み痕を増やされてはたまらない。素早く手を引いて首根っこを掴み、うつ伏せに床に押し付けた。
「アァ……」
舌を出して、涎の糸を引いて。それを見てまさしく獣だと悟った。
さて。
……自分は、この獣に勃つだろうか。
かの弓兵にはしないような荒々しさで指を濡らし、突き立てる。途端押さえ付けた体は跳ねたが、逃れることは叶わなかった。音を鳴らして慣らしていく。
途中で見つけたいいところをしきりに刺激してやれば、ぎゃあぎゃあと本当にうるさく獣のように啼いた。
姿形はそっくりなのに。こんな率直で淫らな様はあの弓兵は見せない。落胆と興奮とが入り交じり、指の動きを激しくさせる。
「アァ……!」
やがて、大きな声を上げて獣は果てた。前には一切触れられず、後ろだけで。
くたり、と尻を突き上げて舌を出し、快感に喘いでいる獣。襤褸のような赤い布が吐き出した白濁で濡れている。
「…………」
正直、限界だった。
「グ、ゥ……、アァ……!!」
解れた最奥に押し当て一気に突き入る。びくん、と背中が跳ね上がり最初から締め上げてくる。
丸い尻を叩けばさらに背中は跳ね、締め付けが強くなる。アウ、だの、グウ、だの、およそ人とは思えない嬌声を獣は上げた。開きっぱなしの口からはそんな喘ぎと涎が垂れ流されている。やはり弓兵と同じ白い髪を掴み、その顔をよく見てやろうと持ち上げた。
すると、眼を縛する赤い布がほどけ。
「――――」
涙に濡れた鋼が現れた。
「ア……ウゥアァ、ァ、アァ……!」
やかましく喚き立て獣が二度目の絶頂に達する。今度こそ力を失ったその体に欲情を叩き付ける。クゥ、と小さな声で獣は啼いた。背後から突き入っていたせいで出したものは溢れ、飲まれなかったものは床にぼたぼたと落ちた。


意識を失った獣の横で一服する。紫煙を吐き出して、ほどけた隙間から見える閉じた眼を伺い見た。
「あ」
ふと気付いて、つぶやく。
「もしかして浮気か。これ」
ヤバい。それはヤバい。具体的に言うと泣かれる。
「どうすっかな……」
獣の乱れた髪をかき回しながら思う。いや、本当にそんなつもりはなかったのだ。
「だけど、なあ」
泣かれる。間違いなく。さてどうするかと頭を悩ませながら、気難しい弓兵への言い訳と捨てることの出来なくなった獣の扱い方を考えた。



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