鉤爪が、胸板を這う。
「アァ……ウゥ……」
露な喉仏が仰け反って、そこに犬歯が噛み付いた。と、途端歓喜の声が上がる。青から赤へとグラデーションのかかった長い髪が、腕をくくるように縛った赤い布の上を滑ってさらさらと音を立てて。
噛み付いたままで男は獲物を振り回すように首を回す。そうすればぐるぐると歓喜の声は高くなり、いや増し。
「グ、ゥ」
笑った。
ようだった。
噛み付いた口元を吊り上げた男は閉ざされた目元も吊り上げたような獰猛さで獲物に喰らい付くと、腰の前で結ばれた布を解く。そしてぴったりとした黒い鎧の中へと手を差し入れ、濡れた音の鳴り出した下肢をかき回し、結果的には擦り下ろす。
膝の辺りでわだかまった黒い鎧、ぐちゃぐちゃと皺になった赤い布、膝をついた褐色の肌、ぽたん、ぽたんと落ちる白い体液。
「ア、ゥ、」
喉を逸らして獲物は毛皮の枕へ頬を預け、布の奥で見えない目をうっとりと細める。それを悟り、男は胸板と腰を獲物へと突き付けた。
びくんと戦慄く体。ン、と詰まった声、褐色の肌、赤い唇、白い歯、糸を引いた舌が毛皮を舐め取るように、絡め取るように動く。
「グア、」
谷間を割るように押し付けられた熱いもの。
ぐちりと音が、鳴って、


「ア――――グゥ!」


「グ、ア、」
押し込まれた熱塊。獲物はようやく縫い止められたかのように喉を逸らして喘ぐ。はっはっはっ、と繰り返された荒い息が獲物の体を湿らせ、共に彼らは歓喜の木霊を響かせた。
馴染ませるように待たず、律動はすぐに開始される。ぐちぐちと短い音が絶え間なく鳴り始めて、獲物の唇がだらしなく開く。
涎を回り込んできた男の唇が啜り、舐め取り。
「ウゥ、ア」
「ンン――――ゥ!」
そのまま唇を奪われ、獲物が詰まった声を上げる。ほんのり染まった褐色の肌。そこを鉤爪が掻いて。
「ン、ンン」
ぐっと喉を反らせ、男は爪で肌を掻き回す。赤くなくも残る爪の痕。それが痒いようで痛いようで快感なのか、獲物はかすかな声を塞がれたままの口から上げる。掻く手を、手首を獲物が掴んでもっと、と言うかのように肌に押し付けた。
「アア!」
肩に噛み付かれた獲物が大声で喚く。蓋が外れた口はぎゃんぎゃんと快感を喚き散らして、律動と掻き回し、噛み付きの三点責めの効果を見せ付ける。
男は肉を食い千切らんとばかりに強く、強く獲物の肩に食い付いた。と、
「ア」
どくん、とその肩が跳ね上がった。毛皮がさあっ、と風で撫でられる。――――かと思えば範囲を増し、鎧、肌、腕、髪、人としての部分を毛皮が覆っていき。
「ア……ア」
ぶわり、と体の容積が膨れ上がる。獲物に喰らい付いた牙がさらに尖り、膨れ、太り、ばん!と弾けるように尾が生えた。
腕が腹が足が肩が弾け飛ぶように増し、最後に頭に耳が生えて。
「アアアアア!」
男は、獣に、変じた。
「グ……ゥ、」
男だった獣のそれは獲物の腹を突き上げ、揺さぶり、震え上がらせ、地に這わせて後ろから犯す。
「ア、ァ、グゥ、ウ!」
獲物の声は歓喜か悲観か。
ずちゅりと突き入った獣のそれに、肩を擦り付けるようにして獲物が地を転げ回ろうとするが獣がそれを許さずに肩へと喰らい付く。獲物の傷がある背を何度も何度も獣は掻いて、掻き乱して、散らして、人だった頃よりも深く傷を滲ませた。
はあはあと篭る獣の熱息。獲物は激しく深く後ろから突き入られ、出来るだけと爪を地へ突き立てる。
叫ぶ声は呂律が回らない。けれどそこに悲哀はなかった。獲物は悦んでいた。
男に、獣に、犯されて、貫かれることに。
「ア、ンン、グ、ゥウ!」
ほどけかけた赤い布。それさえも喰らい尽くさんとせんがばかりに獣が口を開ける。
生え揃った鋭い牙。べったりと付着したのは獣の涎と獲物の血だ。
腕に噛み付く獣。そのまま咀嚼せんとばかりに何回も、何回も。
ぶるる、と獲物の背が震えて。
「ア――――ァア!」
触れられてもいない性器が、白濁を吐き出した。
落ちてしまう獲物の顎。くったりと地に伏して、吐き出された白濁で濡れた地に顎を落としてはあはあと喘ぐ獲物が、「ンン、」と小さく声を漏らす。
すると獣が小さく吠えて、その腰を大きく突き上げた。
「アァ……ア……」
どくどくと注がれる熱いもの。
注がれ続けるものに獲物がゆっくり口を開け、陶酔の声を漏らす。ぶるる、と震える背筋、注がれていく獣の体液。
「ン、ゥ……」
身を捻る獲物。未だ腰を揺らす獣。
その性器の先端からは体液が放たれ続けていて、獲物の腹を満たしていく。
どくどく、どくどく、と長い間。
「ン、グゥ……」
終わらない射精。
獣のそれは長いと言うが――――さて?
ふたつの影は、絡み合い続ける。



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