本日も曇天。繰り返し繰り返し繰り返す。彼が此処に囚われてから晴天や雨天が訪れることなどない。繰り返し繰り返し繰り返す。螺旋。負の螺旋には終わりは見えず。彼はまた今日もその躰を玩ばれるのだ。
「……あ、は、ぁ、」
熱に浮かされた声が礼拝堂に響き渡る。何度も何度も放たれたそれはひどく掠れて、聞く者が聞けば庇護欲を煽られただろう。
だが、今礼拝堂にそんな心を持った者はいない。全てが裏返しだ。この教会に潜む三人は全てが全て彼を苛むのだった。
三人の中で一番背高の男の手からどろどろと沸きだすのは黒い泥。それは彼の躰を這い、意志があるかのように動き回る。
「……うぁ、は、あぁっ!」
泥に嬲られながら彼は声を上げる。その下肢に打ち付けられる青年の腰。
「もっと声を上げろ、フェイカー。精々狂態を演じてみせて我を満足させるがいい」
「あ、あ、ぁ……」
掠れた声は留まることを知らない。嬲られれば嬲られるだけ、突かれれば突かれるだけ反応を返す。男の口元に、青年の口元に、同様に浮かぶは愉悦の笑みだ。
「おい、」
そこに割って入るように声が響き渡った。年頃は男と青年のちょうど中間くらいか。
「虐めるのはいいがな、適度にやれよ。あんまり激しくやると壊れちまうだろうが」
「ほう、我に意見するか狗? そんなにこの贋作が気に入ったか」
青年の声に、その男とも青年とも取れる者は眉を潜めて。
「オレだって楽しみてえんだよ。その前におまえらの暴虐でこいつが壊れたら困る。そういう意味だ」
「は……あ、」
彼の口元にかかる白い手。指先は赤い口腔内に入り込み、溢れた唾液に濡れる。
くぷり。彼の口腔はまるで女のそれのように白い指先を受け入れた。その指先を音を立て遊ばせながらもう片方の白い指先で、革パンのジッパーを器用に下げる。
「……ほら、いい子だ。口開いてさっさと咥えな」
「ん……う……」
下着をかき分け現れた赤黒いそれは当然のように彼の口元に押し付けられ、中へと入り込む。繰り返し繰り返し繰り返したというのに彼はいつまで経ってもその行為に慣れなかった。
「贋作の具合はどうだ? 狗」
「……るせえ、な、他人に聞いてる暇があったらその分てめえの腰動かしてろ……よ!」
「んんっ!」
熱く育ちかけた塊を口内に突き立てられ、彼はたまらず呻き声を上げる。その様を笑ったのか、背後で哄笑が上がった。
「は! 違いない!」
途端に背後からの責めが強くなり、彼は悲鳴のような嬌声を上げた。深く抉るように突き入れられ、かは、と吐息のような叫びを漏らす。
「いつまで経っても慣れんなフェイカー。泣き喚き、身悶え、許しを乞う。それが貴様に許されたことではあるが、こうも予定調和だと少々つまらん」
慣れてみせろ、と青年は言う。だがしかしそのようなことはまさしく許されない。彼が少しでもこの行為に慣れた様を見せたなら、青年は晴れやかな笑顔のままで彼の首を刎ねるだろう。そして返り血を浴びて言うのだ。


『貴様には失望したぞ、フェイカー?』


男の視線が彼の躰を這う。それはさながら蛇だった。共に彼を甚振る青年を騙した狡猾な蛇。す、とその武骨な指が動いて彼の下肢を指す。
「う、あぁ!」
青年が腰を打ち付ける隙間を縫って入り込むは粘着いた泥。
「何だ、言峰。おまえは直接に参加はせんのか」
「私はこうやっているだけで満足だ。肉の交わりに溺れるような年でもないのでな」
「枯れたというわけか。まぁいい」
青年は腰を打ち付けながら、血のように赤い唇をぺろりと舐めた。
「――――我は、我が楽しめればそれでいい」
「ぁあぁ!!」
彼が。ひときわ大きく高い声を発し、絶頂に達する。その引き絞りに青年は美しい顔をわずか歪め、腰を乱暴に後方へと引いた。
それを待っていたかのように撒き散らされる白濁。量の多いそれは容赦なく広い背へと降りかかった。
「必要以上の魔力を蓄えられては面倒なことになるからな。なぁ? “アーチャー”」
青年は上体を倒す。耳元でささやかれた言葉にびくん、と震える汚れた背中。赤を。鮮烈な穢れを知らぬ赤を。大量の白濁が汚し、て――――
「っ……」
その時、低く詰めた声が上がった。男でも青年でもない第三者。それに青年は言う。情事の余韻すら残さず、傲慢に。
「口にくれてやるなよ。貴様の人格はともかく、魔力の質は一級品だ。そんなものを与えられれば、この贋作は」
「わーってる……よ……っ!」
「!?」
一度ぐい、と深く喉の奥まで熱を突き入れて。次の瞬間には、第三者も吐精していた。熱の塊は放つ間際に引き抜かれ、べっとりと彼の褐色の顔を白濁に染め上げる。
「は……っ……」
どこか甘い吐息。
支えを失った彼は、膝から床へと崩れ落ちる。遠ざかっていく意識。その中で、神父の沈黙と、英雄王の嘲りと、光の御子の戸惑いを聞いていた。
暗くなっていく。どんどん暗くなっていく。
本日のショウは終了致しました。だが負の螺旋は消えはしない。繰り返し繰り返し繰り返し、それは彼を苛むのだ。



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