だって仕方ないじゃないか。
願ったものは手に入らない。望んだものは粉々に砕け散る。何ひとつ、たとえ塵芥でさえこの手の内には残らないのだ。
そう考えるとあまりのおかしさに震えてくる。ぞくぞくして、そうして泣いている自分に気付いてまたおかしくなった。
狂っている。それでも仕方ないじゃないか、と笑えてきてたまらない。だって誰一人自分の誓いを遂げさせてくれないのだから。ほんの、ほんのささやかな、ちっぽけな誓いだというのに。それさえ叶えさせてくれない。
――――たとえば。
一度目、間違えたとしよう。石に躓いて転んだ、怪我をした。なら立ち上がればいいと言う者もいる。痛いと言う前に立てと。その先に求める物があるからと。
自分はその言葉を信じた。信じて、立ち上がった。泣きたくなるのを我慢して、擦り剥いた膝を自分ではたいて、滲んだ血を拭った。
そうして、歩きだす。すっくと立って二度目の道を選ぶ。いっそ愚直なほど一度目と同じような境遇である二度目の道を。
そこにしか自分の求めた物はないからと、思って一歩踏みだした。二度目の生を、願いを、念願の思いを遂げるために。だがどうだ。
この様はどうだ?何が手の内に残った?ほら、体中が血まみれじゃないか。心臓は破けて修復不能。ついでに元々中途半端に掲げていた誇りも地に落ちた。物の見事に敗残兵、人生の負け犬の一丁上がり。
犬ならばまだいい。信じてもらえる忠犬ならば。
自分は最期まで、主に信じてもらえなかった犬以下の存在だ。
だから。
……だから、一度くらいは好きな物を手に入れようとしたっていいだろう?
「ふふ……ふふふ、あは……あははは……」
大空洞の瓦礫に腰かけて、泥で作った大きな手足で好きな物を弄ぶ。悔しそうな、傷ついたその顔が今は何よりいとしい。このまま引き裂いてしまいたい、けれどもったいないからやらない。ずっとずっと一緒だ。一緒にいて、嬲り尽くして遊ぶのだ。そう。
「ずっと……一緒ですよ……」
固く閉ざされた唇は望む音を奏でてはくれない。なので、無理矢理にでも歌ってもらうことにした。
びくん、と大柄な体が震えて、空気をも震わせる。ああ、聞けた。それがひどく嬉しくて久々に笑った。朗らかに。
“彼”が聞いたのなら見たのなら、喜んでくれただろう笑顔で。
だけど、もう彼はそんな風に喜んではくれない。ただただ自分の存在は憎として彼の中に刻まれている。愛など望むべくもない。
でも、それでも、もういい。刻んでくれた、それだけでいい。どんな形だとしても彼の中に残るのだから。自分という矮小な存在が彼の中に何もかも何もかも何もかも何もかも何もかも消し去っていって刻み込まれるのだから。
一番。
彼の中で、自分だけが唯一になる。
それならば憎まれたって何だっていい。だから自分は泣きながら笑う。赤い血の涙をぼたぼたと流しながら、肩を揺らして声高く。
すると笑い声が反響してああうるさいな、と頭の端でちらりと思う、けれども目の前の艶姿にすぐそんなことはどうでもよくなってしまった。
「ねえ……     さん……」
つぶやいた名前は誰の物だったか。そんな物いらない。彼が目の前にいる、それだけでいい。
ああ、やっと手に入れられた。
「かみさま――――」
いつかめちゃくちゃに穢された自分のユメ。
それが、今、やっと手の中に戻ってきた。

ありがとうございますと“かみさま”に感謝して、自分はすぐまた彼と一緒に遊ぶことに傾倒して耽るのだ――――。




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