「アーチャー」
「ん?」
洗濯物を畳んでいたアーチャーは、不意に声をかけられ顔を上げた。するとそこにはセイバーの姿。
そうか、今日は道場でのバイトは休みなのか。……なんてことを考えて、いったん洗濯物を畳む手を止めて彼女の言葉に耳を傾けようとする。
「どうした? 何か用か? ……ああ、小腹でも」
「違いますっ!」
可能性を提示してみると露骨にセイバーが怒ってしまったのできょとんと目を丸くする。その可能性が高いと思っていたのだが。
いつもきゅーくるくると腹を鳴らしているのがセイバーというイメージだったから。
とにかく彼女を怒らせたままでは良くないとアーチャーは苦笑して詫びる。下手に、下手に出て。
「悪かった、君を怒らせるつもりではなかったんだ。で、用事は一体?」
「はい……その、言い辛いのですが……」
言ってみればやおらもじもじとセイバーは恥じらい始めて。
その様子がアーチャーにはまったく理解出来ず、首をかしげて彼女を見つめる。膝の上に置かれた手とタオル。
「セイバー?」
「アーチャー……」
セイバーはその言葉を切欠に、意を決したような表情になって跪くと。
アーチャーの手を取って、こう言ったのだ。


「わたしのエクスカリバーを、あなたの中に収めさせてください!」
「……え?」


ちくたくちくたくちくたく。
居間に飾られた時計が時を刻む音。その他は、無音。
しばしの後、アーチャーはふう、とため息をついて。
「……済まないが、私は君の宝具を受けて耐え切れる自信がない。きっと跡形もなく消し飛んでしまうだろう、だから――――」
「違います! そういう意味ではないのです!」
じゃあどういう意味なのさ。
半ば素に戻ってアーチャーが思考する、その間にもセイバーは距離を縮めてきて。
「わたしが過去、妻帯者であったことは知っているでしょう?」
「ああ……うん……」
だから?
「その際に男の体となって彼女を抱いたこともお話しましたよね?」
「うん……?」
だから、何だって言うんだ。
「その魔術の効果が、今また再現されてしまったようで……」
「え……」
それは。
ちくたくちくたくちくちく。 沈黙の後、アーチャーは叫んだ。
「ええええええ!?」
「よろしければ、確かめてみてください」
そう言いセイバーは男らしく、取ったままだったアーチャーの手を自らのそこに押し付ける。そうすれば確かにそこには“それ”の感触。というか心なしかアーチャーのものより大きい気が……?
「セッ、セイバー! セイバー、離してくれないかセイバー! 女性がこのようなこと、はしたない!」
「ですから、今のわたしは女性ではないのです!」
いわゆるふたなりです!とセイバーが叫ぶ、なんでそんなこと知っているんだ、とアーチャー。聖杯機能のせいだ、おそらくは。
ええいそんな機能滅せよ、とアーチャーが世の中を呪う間にもセイバーの暴走は続く。
アーチャーの手をそこに押し付けさせたまま、もうかたっぽの手で腰を抱いて床に押し倒していこうとする。
「や、やめろセイバー! やめてくれ! こんなところで……いや、場所を変えればいいってものではないぞ!?」
「ちっ」
そう言おうとしていたのか、先回りされてセイバーは舌打ちをする。アーチャーの頭の中はもうぐるぐるだ。手の下のそれはどくどくと脈打っているし。
「これははっきり言ってセクハラだぞ!?」
「愛する者に対して欲情するのは当たり前のことでしょう?」
「純粋な瞳で言わないでくれー!」
だぁん。
とうとう床に押し倒されて、アーチャーは「ひっ」と声を上げる。そこにぬっと出てくる彼女の顔は、逆光になってよく見えない。
「セイバー、本当に取り返しがつかなくなる前にやめ……んっ」
突然唇を奪われて、アーチャーは言葉を押さえられた。くちゅくちゅと音を立てて絡めあわされる舌と舌。んっ、んんっ、と詰まった、鼻にかかったアーチャーの声。つうっと溢れた唾液が顎を伝って胸元に落ちていく。びくん、とそれで彼の体はいとも簡単に震えた。
「アーチャー……可愛いです……」
いつの間にかスラックスを下ろされていて、下着の間を割って指が侵入してくる。それにまたアーチャーは声を上げてしまう。
苦痛には強いアーチャーだったが、快楽にはひどく弱かった。
「力……抜いてくださいね」
次第にぬるぬると滑りだすそこを、白く細いセイバーの指が嬲る。思わず涙目になって腕で顔を隠そうとしたアーチャーだったが、セイバーによりそれは妨害されてしまう。
「顔、見せてください」
「あ……いや、だ、セイバー……」
「恥ずかしいのですか? 大丈夫です、わたししか見ていませんよ……」
それが恥ずかしいのに。
そう言いたいが、口からは喘ぎが吐息が漏れてしまって言葉にならない。セイバーからの的確な愛撫にまさに弓のようにその体が反る。
「ふ、あ、セイバー、」
「悦いですかアーチャー? ふふ、でしたら嬉しいのですが」
セイバー、余裕綽々である。ひく、ひく、と嗚咽のような声を漏らすアーチャーの口から、今までにない大きな声が上がった。
「あっ! あっ、ああっ、ああぁ……っ……!」
「アーチャー、力を抜いて」
ぬるり、と奥に入ってくる少女の指。それは細いくせにアーチャーの内を圧迫して、どうしようもなく声を漏らさせる。
「いいですか、ゆっくりと息を吸って、吐いて。深呼吸をするように……」
「む……り……っ……」
「あなたなら出来ます、アーチャー」
戦慄く足の指、浅く紅潮した褐色の肌。それとセイバーの白い肌とのコントラストは美しいものだったがどちらもそれを認識することは出来なかった。アーチャーは感覚に耐えることに必死だったのと、セイバーは目の前の愛しい者の反応を見るのに一生懸命だったのと。
「い……っ」
指が二本入ってくると、ぎち、とアーチャーが歯を食いしばる。鋼色の瞳に浮かぶ涙は生理的なものか、それとも。
「指が食いちぎられてしまいそうです……お願いですから力を抜いてください、アーチャー」
「無理……だ……っ!」
「…………」
セイバーはため息をつくと。
「っ!」
ぐり、と中で指を回すようにすると、その動作を繰り返し始めた。一見意味のないようなそれは、しかし――――。
「あっ!? あっ……ぅあ!」
「ここ、ですか」
「何……っ、あっ、あっあ! は……っ!」
断続的にアーチャーの口から上がる嬌声。セイバーは満足そうに唇を吊り上げて微笑むと。
「わたしは殿方の悦ばせ方も心得ています。もう苦しませはしませんよ、アーチャー」
「…………ッ!!」
男の弱い場所を的確に突き、セイバーはアーチャーを頂点に高めていく。下着の下の彼自身はもうはち切れそうにびくびくと震えていて。
「一度解放しておきましょうか。さあ、わたしに身を委ねて……アーチャー」
「――――〜ッ」
官能的な声を上げて、アーチャーは唇を噛むとびくんびくん、と体を震わせた。途端にセイバーの指を汚すように白濁が飛ぶ。
「あ、はあ、あ、あ……」
「アーチャー」
赤い舌を出して白濁を舐め取るセイバーを見ても、解放の余韻に浸っているアーチャーからの反応は薄い。その彼の目の前に。
「次はわたしの番です。あなたの口で……わたしを……」
ずい、と突きだされたものはやはり、アーチャーのそれより大きくて。
「…………!」
「さあ、アーチャー」
唇に先端が触れる、割って入ってくる。興奮にか滑っていたそれは体液の助けを借りてアーチャーの口内に、あっけなく侵入を果たしてしまった。
「ん……! ふ……」
「ああ……熱い……あなたの口の中、とても気持ちいいですよ、アーチャー……」
恍惚とした声でアーチャーの頭を撫でながらセイバーがささやく。たおやかな少女の体にはとてもではないが似合わない剛直が音を立てアーチャーの口内を行き来する様はとても異様であって、淫らで。
「んっ、ぐっ、ううっ、」
「ん……」
目を閉じて、セイバーが一度ぶるりと体を震わせると。
「…………ッ!」
口の中で大きく脈動したセイバー自身から溢れた白濁は、アーチャーの口内を満たして熱く喉を焼いていく。それを喉仏を震わせながらアーチャーは少しずつ少しずつ飲み込んでいった。
「……ん、く」
やがて全てを飲み込み終えると、それでも口端からこぼれたものを舌で拭い取る。その様にセイバーは。
「!?」
ひたり、と奥に押し当てられた熱いもの。呂律が回らなくなった口でアーチャーは叫ぶ。
「セイバー、君……!?」
「アーチャー、言ったでしょう? あなたの中にわたしを収めさせてほしいと……!」
「だが、それは!」
「駄目です、我慢出来ません。何を言っても無駄ですよ、アーチャー」
「セイバー……!」
いけない、と言おうとしたその瞬間、ずるりと一気に奥までを貫かれてアーチャーは切羽詰った声を上げる。ほんの少しの躊躇いも何も彼女にはなかった。ただ、アーチャーと繋がりたいのだと彼女は。
「あっ……あぁ……! ん……!」
「奥まで……入りました、ね……」
ふふ、とセイバーが微笑む。白い顔が火照って赤くなっていた。愛らしい顔立ちだというのにその立場は捕食者のもの。
「いいですか……? わたしはもう、自分を抑えられません……!」
激しく行きますよ、とセイバーは言ってアーチャーの足を抱え上げると腰を進め始めた。ずちゅ、じゅる、と粘着質な音が居間中に響きだす。
「ふぁ、やめ、セイバー……! や、……んな、ところ、で……!」
「駄目です、とわたしは言った、はずです……よ……!」
加虐的とも言えるセイバーのささやき。それに首をふるふると振って、アーチャーはただただ喘ぐ。すっかり下りてしまった髪が、彼の幼さを強調させる。
「あっ、あっ、あぁっ、んん……! や、ぁっ、セイバー……!」
「アーチャー……、アーチャー、アーチャー、アーチャー……」
交感の音、そこら中を湿らせる熱。少女の責めを受ける男という、一種異様な光景だが、それはとても美しかった。
とてもとても、美しかった。
自らよりも相当がたいのいい男を好き放題に乱れさせて、少女は愉悦に浸る。
彼を愛しているのだという、愉悦に浸る。
かつても今も、愛した彼を。
「アー…………シロウ……!」
「あ……!」
やがて彼らは同時に達し、アーチャーは自らの腹に、セイバーはアーチャーの内に白濁としたものをぶちまける。
「あ……ああ、あ……」
「シ……ロウ……」
しばらくはその後、はあ、はあ、という獣のような呼気がその場に響いていた。


「すみませんでした。ですが、わたしはあなたと繋がりたかったのです」
事後、衣服の乱れと体の汚れを正した後でセイバーがぽつりとつぶやく。愛するあなたと、と、ぽつりと。
それに、気だるげな様子でアーチャーは答えた。熱い吐息を零しながら。
「セイバー」
「はい」
どんな叱りでも受けましょう、と毅然とした面持ちで対したセイバーに、彼は。
「君を責めるつもりはないよ。……ただ、少し強引すぎる様ではあったが」
「! アーチャー……」
「でも、もうこんなことはしないと約束してくれるな? セイバー」
「……はい」
そう言って、しゅん、と下を向いた彼女に思わず戸惑うアーチャー。顔を覗き込み、わずかながらに慰めようとしたところを。


ちゅっ。


「!」
「隙あり、です」
頬にくちづけをされて、微笑まれ。


「セイバー!!」
怒鳴り声を上げて、直後に咳き込んでしまったアーチャーなのだった。



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