「ねぇ、アーチャー。わたしに貴方を愛させて。恋してしまったの、もう取り返しがつかないの」
可憐である少女は、しかし毒花のように微笑んだ。
そのアンバランスさに男の構えが遅れ、そこを鋭い軌跡が急襲する。
ざしゅ、
「――――っぐ、ぁ、あ……!?」
「ああ……!」
男の腹で咲く赤い華。棘のような足をそこに突き刺した少女は口端を吊り上げて声を立てる。
くすくすと。
笑い、嘲るように恋し、愛する。
「熱い、すごく貴方の中は熱いわ、アーチャー! それにその淫らな顔! わたし、ほんの少し虐めただけで絶頂してしまいそう!」
ぶるり、少女の体が震える。細かく痙攣した男の体、苦痛に歪んだ面の中で鋼色の瞳が戦意を灯している。
「メ、ルト、リリ、ス……ッ……」
「あら、名前を呼んでくれるのね。嬉しいわアーチャー。そうね……」
「ぅ、あぁ、あ!」
奥深くまで。
貫通するほどに足を突き込んだ少女は、新たに咲いた華に笑う。男の喉から上がる低い苦鳴。
男の臓物を弄り回すように足を捻って、少女は長い長い袖を伸ばす。
「愛している、と言ってくれたら、もっと気持ちよくしてあげるわよ?」
「…………、は……ッ!!」
ぐちゅり、と女の膣に男根を突き入れるのと似た音がする。けれど立場は逆だ。突き入れたのは少女で、翻弄されるのは男。
「ああ。聞くのを忘れていたけれど。貴方、“初めて”?」
どくどく溢れるそれを破瓜の血に見立てたのか、足の動きを止めずに少女が男に問いかける。
「こんな奥まで犯してくれた人なんて誰もいなかったでしょう、アーチャー」
「ぅ、く……!」
唇を噛む男。やがてそれはぷつりと切れて、新たに赤い血を流す。
少女はなおも足の動きを止めぬまま、その血に袖を伸ばした。
「辛いの? 悦いの? どちらでもいいけれど。辛いのなら快楽をあげるし、悦いのならもっと悦くしてあげるだけだもの」
ねぇ、と少女は。
「答えて、わたしのお人形さん」
「…………っ」
男は沈黙を貫く。ただ荒い息を漏らし、肩を上下させてはあはあと。
少女は右眉をわずかに上げた。
「教えてくれないの? アーチャー」
「――――、」
「そう。ならいいわ。どちらでもいいと言ったのはわたしだし。だったら染めてあげる」
少女の舌が男の血に染まった自身の黒衣の袖を舐める。加虐的なその仕草、一瞬後。
「…………ッ、ぁ…………!?」
粘性の高いジェルのようなものが、少女の袖口から溢れ出す。とろとろ流れてそれは男の首筋から伝って中へと侵入し、肌からも摂取されてていく。
毒々しい色をしたそれ。男の褐色の肌の上で、妖しく光る。
「な、にをした、メルトリリス……ッ……、ぅあ……!」
「ウィルスを仕込んであげたのよ。オールドレイン、全てをわたしにするウィルスとは少し違うものだけれど。けれど溶け合う快楽はあるはずよ? ほぉら、」
「ん、ぁあ……!!」
円を描くように。
少女の足がバレエを舞うように踊り、男の口から喘ぎを引き出す。先程まで戦意に燃えていた瞳は蕩けるように濡れて焦点を失っていた。
それを見た少女の頬が赤く火照って、そっとため息が唇から漏れた。
「なんて顔をするの! 止まらなくなってしまうじゃない、あんまり虐めすぎると本格的に壊してしまうから耐えているのに……貴方見た目は頑丈だけれど、中はきっと弱いから」
だからわたしの足に、痛みに酔ってしまうの、だからわたしのウィルスに理性も本能も溶かされてしまうのと少女はささやいて。
「わたしがいなければ駄目なようにしてあげるわ、アーチャー。あんなマスターなんて忘れてしまって、わたしと溶け合いましょう。痛くしてあげる。悦くしてあげる。貴方が望む全部をあげる。だから、ね」
「……は、あっ、」
度の過ぎた苦痛と快楽を同時に与えられ、男の脳は崩壊寸前だった。戦意はすっかり喪失、ストイックな表面は蜜に溶かされて見る影もない。
恋するまなざしで少女は愛を語り、わたしと結ばれてと足で嬲る。
サディスティックでありながらひどく献身的な恋情がそこにはあった。
血生臭い恋情。尖った慕情。滴る愛情。
与えては奪い、少女は男を善がらせる。
「わたしの蜜で、何もかも溶かしてあげるわ。快楽の海に溺れなさい、アーチャー」
「ん、んん、んふ……っ……」
「素敵な声。わたしまで蕩けてしまいそう……」
うっとりと言うと、少女はだらりと垂れ下がった男の手を取り、持ち上げて甲にくちづけた。
するといっそう大きく男の体が震えたが、少女は満足げに舌舐めずりをして。
「悦いの? 淫らね。愛してあげる、もっともっと愛してあげるから、全部明け渡してわたしのものになって、アーチャー」
ぐちゃ、と血に鳴る腹部。
紅潮した少女の頬、汗に濡れた男の肌。
音を立ててちゅうっと甲をも満たす汗を吸い取ると、少女はさらに音を立ててそれを飲み下した。
「――――さあ」
そんな少女の導きに、男の体がこれまでで一番大きく震えたのだった。




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