「ん、ふ、んんっ」
苦しげな声。
当然だ、喉の奥まで熱を突き込まれているのだから。
アーチャーは不慣れな口淫をその熱に施す。舌を絡めてみたり、軽く吸ってみたり。けれど熱の持ち主はそんなことをしなくともいいのだとばかりにただ、彼の後頭部に手を添えてがっしりとした、けれどもどこかしなやかな腰を前後に抽挿する。
「ん、っ――――」
たまらず己も熱に添えていた手を離してしまいそうになったアーチャーの鋼色の瞳の端へ浮かぶ、生理的な涙。それを受けて鋼色の瞳はどこか紫色を帯び、ほんのりと淡く輝きを帯びた。
「……たまんねえな、おい」
興に乗った響きと共に、抽挿の勢いが増す。それに「!?」とアーチャーは呻き、思わず逃げようとする。だが、白い手がそれを許さなかった。
「ふ、ぅ、!」
逃げ場を失った舌は余計に熱に絡んでしまうようになり、結果それの膨張を招く。口端から溢れた唾液がぱたぱたと黒いスラックスを濡らしていき、生地の色を濃くしていった。
「慌てんなって、悪くしやしねえから」
「…………! っ、」
悪くしやしないなどと、何の戯言を。それは「自分にとって」悪いようにはしない、だろう?
そう、余裕があればアーチャーは言ってやっていたはずだ。けれど残念ながらその時の彼にそんな余裕はなかった。どくんどくんと心臓が鼓動を増し、涙溢れる目を閉じればいいものか開けていればいいものか頭の端で何故か必死に考えていたのだった。
閉じて感覚共に全てを遮断してしまうか。
開けたままで相手の動向を探るか。……正直どちらでもいい。現状においては。
とりあえずは一度、出してしまってもらえればいいのだ。下世話な話ではあるが。この行為が終わればアーチャーは逃げられるのだから。
それでも、言えない。「出してくれ」などと。二重の意味で言えない。はてしなくはしたないことであるし、そもそも、ものを言う口は塞がれているのだし。
「んく、う、ぅ……」
ごくりと飲み下した唾液がどろついている。自分の唾液なのか相手の体液なのか。判別がつかない。
まず、こういった行為がアーチャーにとっては初めてだった。だから何もかもが判別がつかなかった。判断が出来なかった。線引きも叶わなかった。
どこまでがセーフで。
どこまでがアウトなのか。
そもそもこういう行為は全部アウトなのではないだろうか。
それにアーチャーが気付いた時だった。
「つっ……」
熱の持ち主が低く息を詰め。
「――――ッ!!」
口内に焼けるように熱い、体液が注がれた。どくどくどく、と何度も何度もそれは小刻みに震えて放たれ、アーチャーの口内を満たしていき、喉に流れていくと熱く満たしていく。
飲み込むことを前提として口内に吐き出されたそれは血と同じく魔力の味がして甘かったが、やはり血と同じでどこかうっすらと苦かった。
「っ、つ、」
脈動がなくなっていき、ようやっと終わったかと思ったところで、ずるりと熱が抜き出されてアーチャーは瞠目する。その顔に、額に。
「…………ふ、あっ!?」
びゅくびゅく、と放たれた白濁はアーチャーの褐色の肌を、特に額を重点的に汚していった。ねっとりと濃いそれは重力に逆らわず下に垂れ落ちて伝っていく。顔に出された。そんなことも初めてで呆然としているアーチャーの頬に、己の出したものが伝っていることもかまわずくちづけて熱の持ち主は。
「よかったぜ、アーチャー」
「…………」
「またやってくれよな!」
爽やかな笑顔で言われ、呆然としていたアーチャーが。


UBWを発動させて熱の持ち主を抹殺したことは致し方ないことだろう。



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