「―――――チェックメイト。おっと、逃げようなんて考えるなよ。オレの相棒がざっくり行くぜ」
「誰が君の相棒かね」
「んじゃあ、恋人だ」
「……貴様」
「冗談だよ、っと!」
振り下ろされる夫婦剣をかわしつつ心臓に向かって赤い魔槍を打ちこんだ。血が溢れて水音が聴覚を侵す。人体の破壊される音と、つながる音、生まれる音。それらすべてを内包する音だった。
崩れていく体を見やって笑う。できるだけ酷薄に、それでもどうしても無邪気に、だけれども凄惨に。
「逃げようなんて考えるなって言っただろ」
馬鹿が、と言う。吐き捨てるように。
その言い方に彼の相棒―――――弓兵は眉間に皺を寄せた。赤い外套が風になびいている。上げられた前髪は理知的な額を惜しげもなくさらし、頭の悪い相手なら怯えるか欲情するかのどちらかであろう。
で、理想的な頭脳を持った弓兵の“こいびと”槍兵はというとどうやら今は、命のやり取りの方に興奮しているらしい。手にした魔槍と同じく赤い瞳がらんらんと輝いている。
まるで狂戦士だ。
「君は頭がいいけれど、使い方がよくないな」
「はあ? ……なんだ、それはつまりオレを馬鹿にしてるってのか? アーチャーよ」
「どうだろうな。私としては君を誉めたつもりなのだが」
「回りくどいんだよおまえは。もっと近道するように心がけろ」
だから前だって今だって標的を逃がしかけた、というのに弓兵は両手で耳を塞いだ。あっ、と槍兵は声を上げる。
「汚ねえぞ! ガキかおまえ!」
「少なくとも実年齢は君より子供だろう」
「知るかそんなもん! 正確に教えもしねえのによ」
「共同戦線にあるからといってすべてを教えるわけでもなかろう」
「いや。……てめえは裏切り癖があるからな、弱みを握っておくという意味では聞いておいて損はねえだろ」
「丁重にお断りしようか、槍兵?」
「無理な抵抗だな、弓兵。とりあえず、これが終わったら」
貫く音がした。
派手な音だった割に、そう血は出ていない。ここが戦場ではなかったら賞賛と口笛を浴びるだろう見事な手際だった。
狭まっていた敵の包囲網はざわざわという音と共にまたも広がっていく。一人目を粛清したときと同じように。
それを見て、なんでもないように槍兵は言った。
「抱かせろ。てめえが知りてえ」
「かまわんが」
いつのまにか投影した夫婦剣で三人目の喉を切り裂きながら、冷静に弓兵は言う。
「―――――これを全部片づけてからだ」
「よっし」
四人目を貫いた槍をぶんと振り回し、槍兵は叫ぶ。
「三秒はやる、あの陰険神父みたいで気にくわねえが祈りたい奴は祈れ! 懺悔しろ! そうやって目を閉じてればすぐ終わる!」
「抵抗するなら―――――」
「痛い目に遭うぜ」
五人目。
それで一時は止まった。
概念武装をまとって背中合わせに立っている槍兵と弓兵は、一度深く背中を触れ合わせてささやきあった。
「何人だ?」
「七人を」
「それじゃ、オレは残りだな」
うなずく。
楽しそうに笑うと、同時に地を蹴る。それはちょうど槍兵の宣言から三秒後のことで、もちろん祈れたものも懺悔できたものもいはしなかった。


「それじゃ、また後で」



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