「あと四日でクリスマスイブだな」
夕食の席で、エミヤがぽつりとそう言った。ランサーはああ、と思いだしたように漬け物をつまみながらつぶやく。
「そういやそうだな。すっかり忘れてた」
「君のバイト先は客商売だろう? クリスマス商戦に向けて忙しいのではないのかね」
「うちはそういうの関係ねえからな。味と品で勝負してんだよ」
なるほど、とエミヤはうなずくと、焼き魚と格闘しているセタンタに向かってたずねた。
相変わらずセタンタは魚と相性が悪い。骨まで食べられるように、とろとろに煮こんだ魚ならいいのだけれど。
「セタンタ。クリスマスプレゼントは何が欲しい?」
一生懸命に焼き魚と格闘していたセタンタは、その声に顔を上げるときょろんと目を丸くして。
そうして、にっこりと笑うと。
「弟!」
―――――。
「てめえ、まだ懲りてなかったのか……」
「いてててて、冗談だよ! 冗談だってばこのバカ兄貴!」
「てめえが馬鹿だ。世の中にはな、言っていい冗談と悪い冗談があるんだよ」
こめかみを両側からこぶしでぐりぐりやられ、助けを求めるようにセタンタはエミヤに視線を飛ばす。だが、エミヤは静かにセタンタを見つめた後で、静かに首を左右に振った。
ジャッジメント。
有罪。
世の中に、言っていい冗談と、悪い冗談というのは確かにあるものだ。
それ相応の罰を受けて、ひいひいと呻いていたセタンタは、ちょっと涙目でほしいものって言ってもな、とつぶやいた。
「オレ、エミヤがいればそれでいい」
「……セタンタ。その言葉はうれしいが、去年も君はそう言っていなかったかな?」
「オレの記憶が正しけりゃ一昨年もだ」
「だってほんとのことなんだから、仕方ねえだろ」
平然と言って、白米を口に運ぶセタンタに顔を見合わせる幼なじみふたり。
「……エミコン」
「ランサー! その話は蒸し返さないと約束したではないか!」
「ラジコン? オレ別にほしくねえけど」
「おまえちゃんと耳掃除してるか?」
呆れたように言うランサーに、むっとした顔でセタンタが言い返す。
なにをー、という表情だ。
「毎日エミヤにちゃんとやってもらってらい!」
「…………」
「セ、セタンタ!」
そこは威張るところではないぞ!と慌てるエミヤ。その横顔をじっと見つめるランサー。
「……膝枕か」
「そうだ!」
「セタンタ!」
しー、と唇に指先を当てるエミヤだったが、もう遅い。こぼれた水が戻らないように、言った言葉も戻らないのだ。
ランサーは半眼でエミヤの顔を見ると。
その傍に歩みよっていき。
「…………」
「な、なんだね……」
身構えるエミヤの膝に、ごろんと寝転がった。
「あー!」
「こら、ランサー、今は食事中だぞ!」
悲鳴のような声を上げるセタンタ、どこかズレているエミヤ。目を閉じて満足げなランサー。
「うん、こりゃいいもんだな」
「バカ兄貴! エロ兄貴! どけよ! どけ! どけってば! どーけー!」
けれど悲しいかな体格差。どんなにセタンタが押しても引いてもランサーは動かない。それどころか余裕であくびなどして、
「あー……眠くなってきた。腹いっぱいになったからな……」
「ランサー! まだ食事の途中だろう!」
「どけってば! どけ……どけよ、もー!」
やはりズレているエミヤ。ほとんど涙目のセタンタ。
プレゼントの話どころではない。
結局、エミヤの雷が落ちてランサーは仕方なさそうに起き上がった。はたかれた頭をさすりながら、またあくびをひとつしてなんだよ、と不満そうに。
「ガキに毎日膝貸してやってんだったら、オレにだって貸してくれたっていいじゃねえか。オレとおまえの仲だろ?」
「今は食事中だ。それに、確かに君と私の仲ではあるが、そういう問題ではない」
「ちえ」
子供っぽく舌打ちをして、ランサーは自分の場所へと戻った。
かすかに目の縁を赤くして、エミヤにしがみついているセタンタの頭を撫でてエミヤは笑う。
「セタンタ。なら、いつものようにケーキを作ろう。それでいいかな?」
「―――――」
こくん、とうなずくセタンタ。そうして、ぎゅうっとさらにきつくエミヤに抱きついたのだった。



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