日曜日。
祝日。
でもって明日は振り替え休日で学校が休み、しかもクリスマス・イヴだ。
セタンタはうきうきと足の指を動かしながら背中合わせにくっついたエミヤの体温を満喫する。
エミヤはケーキを焼いてくれると言った。ならば、セタンタは何をしよう?
考えるだけで楽しい。血沸き肉踊る―――――とまではいかないが、むやみやたらにわくわくする。立ち上がってやたらと意味なくあたりを飛び回ってみたくなったりする。やらないけど。
それにしても、誰かの誕生日で一日がまるごと休みになったりするのはすごいことだなあ、とセタンタはふと思った。
セタンタの誕生日も、エミヤの誕生日も、そしておそらくはランサーの誕生日も、特別な日ではあるけれど祝日にはならない。
カレンダーに赤い字で書かれたりはしないのだ。
むう。
「特別なのにな」
「うん?」
ライダーに薦められた本、二冊目を読んでいたエミヤは肩越しに振り返ってセタンタのつぶやきを拾った。
「赤で、丸つけとけばいいのかな」
「……どうした? セタンタ」
「ん、なんでもない」
首を軽くかたむける気配がすると、そうか、とつぶやいてエミヤはまた再び読書へと戻る。だが、意識はいつでもセタンタの方へと向けられているのをセタンタは知っている。
だから、さびしくはない。
エミヤはいつでもセタンタに気を配ってくれる。それはひどくうれしいことだ。
「―――――」
セタンタはふと、くるりと振り返ってエミヤの背中に抱きついた。
顔をうずめてぐりぐりと鼻先を押しつける。エミヤの匂いがした。
「セタンタ?」
不思議そうな声が頭上から聞こえる。ぱたん。本を閉じる気配がして、頭を撫でられた。
やさしくやさしく撫でられる。セタンタ。笑いを含んだ声。
「どうしたんだ」
もごもごもご、とセタンタは言う。エミヤの服と匂いに埋もれながら。
すると笑い声がして、軽く頭をはたかれた。
「それでは何を言っているのかわからないぞ」
「―――――」
もごもご。
勢い余ってかぷ、とエミヤの脇腹に噛みついてしまい、その感触に少し驚く。
「セタンタ」
あくまでもやさしく、引きはがされる。
じっと鋼色の瞳で見つめられて。
「君はケーキの前に、私を食べてしまう気かね?」
「じゃなくて! ……ううん……えっと……ごめんな」
歯形がついていないかと黒いシャツをめくってみれば、軽く跡がついていた。それを見て、ふたりして顔を見合わせて、笑う。
「私の味はどうだった?」
そう、冗談めかしてエミヤが言うので、セタンタは一生懸命考えて、
「美味かった!」
にぎりこぶしを作って、力いっぱい答えた。
エミヤはその答えに目を丸くする。
「って言っても一瞬だったからよくわかんなかったけど―――――うん、でもエミヤはエミヤの作ってくれる甘い卵焼きとおんなじ味がすると思うんだ!」
「…………」
うんっ。
セタンタは大きくうなずく。きっとそうだ、そうに違いない。
エミヤはしばらく目を丸くしたままセタンタを見ると、ふ、とその表情を崩して。
「それでは……」
その、指先を。
「今一度、確かめてみるか?」
セタンタの前に、突きだしたのだった。
今度はセタンタが目を丸くする。ぱちくりまばたきをしながらエミヤを見れば、軽くウインクする彼の姿が飛びこんできて、思わず。
ひらひらと揺らめく指先に噛みついてしまいそうな衝動を、タックルするようにその胴に抱きつくことですりかえた。
ふたり笑い崩れて、抱きあって、眠っていたこねこさんが寝ぼけたように目を覚ますほどに声を立てて騒いだ。
エミヤは。
彼はきっと。
彼の作ってくれる甘い卵焼きのような、甘いホットケーキのような、甘いケーキのような。
とにかく、甘い甘いしあわせの、味がするのだろう。



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