ジングルベルジングルベル、と甲高い声が歌っている。
足元から聞こえるその声をBGMにしながら、エミヤは等間隔に苺を乗せていく。これくらいは他に意識を逸らしながらも出来るのだ。
鈴が鳴るー、と言いながらしゃんしゃんしゃん、とどこから持ってきたのかタンバリンを叩くセタンタ。
そう、今日は楽しいクリスマス・イヴ。
「セタンタ」
声をかけると、まずいと思ったのかタンバリンの音が止む。
うるさかった?
そんな顔で見上げてくるのに首を振って返して、エミヤはその口の中に苺を放りこんでやった。大きくて甘そうなものをだ。
セタンタはあーんと雛のように反射的にそれを受け取る。もぐもぐと咀嚼して、にっかり微笑んだ。
「へへ」
「どうかな?」
「美味い!」
そうか、と微笑んだその足にこねこさんがすりよってくる。エミヤは視線を落として、君には後でミルクだ、とささやく。
するとわかりましたと言わんばかりに、こねこさんはみゃおと声高く鳴いた。
最後の苺を乗せて完成したケーキをまじまじと見て、その出来ばえをセタンタにも見てもらうことにする。
名前を呼んで手招けば、冬木の子犬はしっぽを振って駆けてきた。
「なになに?」
「こんなものでいいだろうか」
ケーキを指さして問いかける。セタンタは先程のエミヤのようにまじまじとケーキを見て、うん、とうなずく。
力強くこぶしを握りしめて、瞳を輝かせ。
「かんぺきだ!」
―――――セタンタは、力むとひらがな発音になるときがある。たとえば、こんな賞賛のときとか、兄との喧嘩のときとか。
自分では気づいていないらしいけど。
足にすりよるこねこさんのようにエミヤの腕に絡みつきながら、セタンタはそれにしても、とつぶやく。
「それにしてもエミヤは本当に料理が上手いよな。絶対、どこの店で売ってるケーキだって、エミヤのケーキには勝てないってオレ思う」
「それは言いすぎだと思うが……うれしいな。ありがとう、セタンタ」
そっと頭を撫でれば絡みつく腕に力が入る。含み笑いをしてセタンタはぎゅうと鼻先と額をくっつけてきた。
子犬の本領発揮といったところか。
しっぽはもう残像が見えるくらいの速さで振られている。すごい。ものすごい速さだ。
「ツリーの飾りつけもしたし、ケーキも出来たし…………チキンも焼いてくれるんだよな!」
「ああ」
「クリスマスなんだなー」
イヴだけど、と顔を上げてセタンタ。そんでもって、明日学校に行けば冬休み!
セタンタの小学校は少しだけ冬休みに入るのが遅い。基本的に通常がゆとりのある時間割だからだろう。
それでも不満を言う生徒はあまりいない。
さて、クリスマスに話を戻そう。
「ランサーも後で来るぞ。シャンパンを持ってきてくれるそうだ」
「え。酒……?」
いつかのエミヤの暴走を目の当たりにしたセタンタは、しっぽの速度をつい遅くしてしまう。まずい。聖夜に悪魔爆誕!か!?
なんてスポーツ新聞のあおりのように想像したセタンタは、次のエミヤの言葉にほっと胸を撫で下ろした。
「いや。ノンアルコールのものと君用のシャンメリーだよ。甘くて美味しいらしい」
期待しているといいぞ、と言われてはい、とこくこくうなずく。
よかった。
本当によかった。
本当によかった!
シャンパンを飲んだエミヤに絡まれて抱きつかれてさば折りを食らったあげくに耳元で「セタンタとサンタは似ているな……?」などとささやかれたら本当、もう、セタンタはどうしたらいいのか。
確かに似てるけど。
セタンタとサンタ。
「あ、そうだ」
サンタで思いだした。
「エミヤ、今日早く寝るか?」
「うん? いや、いつも通りだが……」
「そっか……」
「何か?」
「あ、うん、なんでもないんだけど」
プレゼント。
出来れば、サンタクロースのようにエミヤの枕元に置いてみたかったんだけれど、それは無理だろうなあ、とセタンタは思った。
たぶん、楽しくてきっとセタンタは疲れてすぐ眠ってしまうだろう。いつものように。
今夜に渡そう。楽しくて楽しくて仕方ないころに、最高に楽しくて仕方ないころにエミヤに渡そう。
クラスメイトたちと一緒に選んだ、プレゼント。
ちなみに一応兄、ランサーの分も買ってあったりする。
だって、クリスマスだし。
その……一応。感謝することも、あるし。
うん。
セタンタはひとり、うなずく。
「……タンタ……」
「え?」
慌てて反応する。自分の世界に入りすぎていた。
「セタンタ、テーブルの用意を手伝ってくれるか」
ぽんぽん、とセタンタの頭を叩きながら、どうした?といった顔でエミヤは言う。あ、うん。答えてセタンタはぱっとエミヤから離れた。
そうして、エミヤと一緒に料理がたくさん詰まった、まるで宝箱のような冷蔵庫を目を輝かせてのぞきこんだ。



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