寝巻きのまま、セタンタは廊下を歩く。今日から冬休みだ。
なにをしてあそぼうかな。
エミヤと。
ここが重要である。エミヤと、これがないと駄目なのである。年末で仕事も忙しいことかと思うが、それならセタンタもなんらかの形で手伝うし―――――。
うん、手伝うし。
そんな調子でうきうきと廊下を歩いていたセタンタは、庭先の喧騒に目を向ける。
「あれ」
また、来ている。
おおねこさんだ。こねこさんと上になり下になり遊んでいる。こねこさんは最近少し大きくなった。けれど、まだまだそれでもおおねこさんには敵わないように見えて、セタンタはハラハラしてしまう。
大丈夫なのか?
大丈夫なのか、こねこさん。
「セタンタ。早いな」
「あ、エミヤ!」
おはよう!としがみつく。朝食の支度をしていたのか、エミヤの体はほんのりとあたたかく、白米や鮭のいい匂いがする。もういっそ、食べちゃいたいくらいだ。
そこに変な意味はない―――――だって、セタンタはまだ十歳だから。
「朝食が出来たぞ。早く食べに来るといい」
「うん! あ、エミヤ、ほら、庭に」
「うん?」
はっと我に返って庭でのバトルを教えると、エミヤはくすりと笑って。
「すっかり仲良しになったな……」
感慨深そうに述べた。そうして、
「おおねこさん、こねこさん!」
と、大声で彼らの名前を呼んだ。
すると彼らはぴくりと反応して、エミヤの方まで走りよってくる。やはり焼鮭の匂いに敏感なのか、ごろごろと喉を鳴らしてじゃれつく二匹に本当にうれしそうに顔をゆるませるとそれぞれの狭い額を撫でるエミヤ。
セタンタは。
「……ん?」
突きだしてみた頭を同じようにくりくりと撫でられて、満足そうにえへへと笑った。
「君たちも上がっていくといい。今朝の鮭は塩分が少ないからな。君たちにも安全、安心だ」
ぴゃっと縁側に上るおおねこさん。そしてちょっと難儀な様子でちたぱたしているこねこさんの首をくわえて、隣に乗せてやる。
「よかったなー。おおねこさん、こねこさん、今日は朝からごちそうだぞ」
ちょっとおおねこさんに対しては手が引けているけれど、エミヤにならって二匹の頭をセタンタは撫でる。ごろごろごろ、と規則正しい喉の音。
心がほんわりとする。
エミヤがいつも炊いてくれる白米のようにほんわりと。
「エミヤ、今日の味噌汁なに?」
「じゃがいもとたまねぎだ。好きだろう?」
「だいすきだ!」
ぴょんぴょんと跳ねる。甘めの味つけが好きなセタンタにとっては、よく煮こまれてそれでも形が崩れていない甘味の増したじゃがいもとたまねぎの味噌汁は好物のひとつだ。
そして。
「甘い卵焼きも、あるんだよな!」
力いっぱい叫んだセタンタの手を引きながら少し目を丸くして、エミヤは微笑んだ。ああもちろん。
「もちろん、あるとも」
「やった!」
エミヤだいすきだ!
口の中でほんわりふんわりととろける甘い卵焼き。
冬の朝には最高だ。
いつだって最高だけど!
セタンタは気合いを入れて居間まで駆けていく。急に先に行かれ思わずたたらを踏んだエミヤだったが、笑みを浮かべたまま後についていく。セタンタを追いこさないように、歩幅を調節しながら。
「エミヤ、オレ、なにか手伝えることあったら手伝うから、なんでも言ってくれよな!」
「なんでも?」
「うん、オレに出来ることだったら!」
手を引かれながらエミヤは考えるように宙を見て。
「それではさっそく手伝ってほしいことがあるのだが、いいかな?」
「なんだ!? 洗い物か!? 洗濯物か!? それとも雑巾がけ!?」
目をきらきらさせて問うセタンタに、いやいや、と手を振るエミヤ。
「昼食を食べ終わったらじっくりと手伝ってもらうから、そんなに慌てるな」
だから今は朝食を食べに行こう。
その言葉に、セタンタはぐんぐんとうなずいた。


結局、昼食後にセタンタがエミヤにお願いされたことと言えば、おおねこさんとこねこさんに対するマッサージだった。
少々拍子抜けしたセタンタだったが、これがはまると意外に楽しい。
猫を揉むにもコツが必要。
それを夕方までじっくりと学んだセタンタ、冬休みの一日目のことだった。



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