ぴーくにっくぴくにっくー、と調子外れの歌が響く。
いつものエプロンを付け、台所で三角丸型俵型と様々なかたちのおにぎりを作っているエミヤの足元で体育座りをし、セタンタはいつもどおりにしっぽをぴこぴこと揺らしていた。
今日はみどりの日。楽しい楽しいピクニックの日だ。近くの公園ではなくちょっと足を伸ばして遠くまで。
護衛たちはもちろん、セイバーや桜、ライダーたちも一緒である。無論、ランサーもだけれど。
まあそれは許してやるかなっとセタンタはしっぽを揺らしながら思った。だってゴールデンウイークだ。黄金週間。きらきらきら、すごいぞー、ってな感じだ。あとGWと書くとクラスの男子の中で流行っているロボットアニメのようでちょっとかっこいい。
ゴールデンウイークGW!
「セタンタ、」
しゃきーんと超合金のアレを想像していたセタンタは声をかけられ振り向く。するとエミヤがやさしくセタンタを見下ろしていた。
見下しているのではない。それはランサーだ。見下ろしているのである。これ、だいじ。
「ん、どした?」
「具の数をどう合わせようかと思っているのだが。君の意見をくれないか?」
鮭にたらこに昆布シーチキン。エトセテラエトセテラ。
どれを多くしようか、と聞いてくるエミヤにセタンタはちょっと考えて、
「セイバーはなんでもよく食うけど」
膝を抱えたまま、
「桜はカロリーっての? 気にするかな。ライダーはなんでも平気だって。護衛のおっちゃんたちもおんなじ。兄貴は……」
そこでセタンタは黙った。ああ、とエミヤは指についた米粒をぱくりと口にして笑って、
「ランサーのことならわかるさ。大丈夫だ」
「…………」
むう。
ちょっとふてくされそうになったセタンタだったが耐えた。だって今日は楽しいピクニックの日だし相手はエミヤだ。それにこんなことで怒るのは“おとなげない”。
セタンタはもう十歳である。二桁を数える年になったのだ。なのでふうん、とだけ答えて膝頭に鼻先をうずめるだけにした。
「それでは鮭や昆布を多めにしておこうか。シーチキンもな」
びよん!
セタンタのしっぽが逆立つ。シーチキン。それは、ランサーの好きな具であるけど、同時にセタンタの。
「えみや?」
「奪い合いになっては困るからな。君たちもせっかくの楽しい日にセイバーに叱られたくはないだろう。彼女はうるさいぞ? いろいろとな」
「し、しってる」
セイバーはやさしくてまじめだけど。マナーを乱す者と美味しい料理を味わう時間をだいなしにする者を許さないのだ。特に料理のことについてはちょっとセタンタも恐れている。
だめでござる今日は断食でござるとか冗談を言って竹刀で頭をパンとやられた者もいるくらいだから。
ぶるぶるぶる、と携帯のバイブ機能のように逆立てたしっぽを震わせ、セタンタは頭を振った。ふたたびおにぎり握り作業に戻るエミヤにつぶやく。
「エミヤ?」
「うん?」
「あの公園、行ったらさ。駆けっこしような。オレまた早くなったんだぜ。先生にも褒められたんだ」
「そうか」
「あと、花のかんむり。ミミたちに教えてもらったんだ。作ってやるから」
「楽しみにしているよ」
「昼寝とかもしたい」
「今日は陽がよく照っている。気持ちがいいだろうな」
「あと弁当のおかず分けっこしたり!」
「…………セタンタ」
話しているうちにテンションがマックス・ハートになってしまったセタンタはん?と首をかしげる。それに合わせるように首をかしげて、エミヤは困ったようにつぶやいた。


「弁当のおかずは、皆、同じだぞ?」
「……あ」


そうでした。


しっぽをしおしおしおと垂れ下がらせたセタンタに、エミヤが何度かまばたきをする。セタンタ、と言いかけたところにしかしセタンタはぐんっと顔を上げて、
「だけどする! 食べさせっこする! タコウインナとかプチトマトとか卵焼きとかあーんて! だってオレたち、恋人同士だからっ!」
そういう風にするって聞いた!と元気よく叫ぶセタンタにエミヤはさらに何度かまばたきをする。
「誰に?」
「エリカ!」
「…………」
ちなみにエリカとはあの六年生の友達のことだ。最近名前で呼び合うようになった。だが誤解しないでほしい。エリカとはあくまで友達……というか戦友?のようなものであり、決してやましい仲ではない。エミヤとセタンタの名に誓って。
ちょっと眉間に皺を寄せて考えているようなエミヤに飛びついて、セタンタは頬を薔薇色に赤くして叫ぶ。
「みんなに見せつけてやろうな!」
特に兄貴!
その言葉にエミヤはおにぎりを握る手を止めると(ずっと握っていたのだ。ある意味すごい。やっぱりエミヤはエミヤだ)ふ、と笑い、
「……少し、恥ずかしいな」
そう、なんともかわいらしく!
意見を口にしたのだった。
セタンタは一気にいとおしくなってしっぽを光速で振り、大丈夫オレがついてるだの、だってオレたち恋人同士だろ、だのと矢継ぎ早に連ねてエミヤの眉を八の字にしたのだった。


蛇足。
無事目的地に着き、様々なイベントをこなし無事に“あーん”をもクリアしたセタンタだったが、上機嫌の真っ最中に今度は兄が「じゃ、オレは口移しで食わせてやるよ」などと言いだしたものだからそれはもう大変な事態になったことを記しておく。



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