「トリック オア……」
トリート!


輝かんばかりの、いや、むしろ輝きまくっている笑顔をじっと見つめるエプロン姿のエミヤさん。
そのポケットから出てきましたのは手作りパンプキンキャンディ。
同時にふんわりと浮かべられる、静かだけれど華やかな笑み。
「参った参った。悪戯をされては敵わないからな。これを献上するので、退散してはくれないだろうか?」
「ケンジョ?」
「こうする、ということだよ」
あーん、と桃色のふっくらとした唇を指差すエミヤさん。そうすれば慌てたようにそれは開いて、
かさかさかさ。
きゅっ。
ぽんっ。
「……ん!」
きょろんっ、だなんていった風に丸くなる真っ赤な瞳。それは笑顔のように、きらきらと、きらきらと輝いて。
「これ美味い! すっげー美味い、エミヤ! 今までのより美味いけど、なんで!?」
「うん。かぼちゃのペーストにバターを多めにくわえてみたんだ。それでコクが出たのではないかな、と思うよ?」
「んん!」
こくこくこくこくっ、と頷く小さな青い頭。それを、
「いいな。それ、オレにもくれよ」
げしり。
だなんて。
実に無情な足音と共に、推定28センチの足が蹴倒した。
「むぎゅっ」
「セタンタ! ランサー!?」
焦って煮物の火を止めると、エミヤさんは自分の足元に倒れ伏した狼男コスの少年を――――セタンタを救出に向かった。げしげしぐりぐりびたびた、と推定28センチの足が小さな青い頭を、後頭部を追撃しようと抉りかましたので。


「全くもう、」
君は。
だなんて言いながらセタンタを膝の上に抱え、眼鏡のブリッジを指先で上げて怒ってみせるエミヤさんの目の前で火の点いていない煙草をゆらゆら揺らして横を向くセタンタの兄、ランサーさん。
「まつりごとではしゃいでいる実の弟によくもこのようなひどいことが出来たものだ! 見たまえ、痕になってしまって……」
「そのエロガキが調子に乗ってるからだよ」
「乗ってねえ!」
エロくもねえし!とエミヤさんの膝の上から飛び出そうとしたセタンタだったけれど、あ、いたた、いたたたた、と呻き、結局は膝の上へと戻ってしまう。
割と深刻だったらしい。兄による足の裏での踏み付けプラス踏みにじりダメージ。
「君だって昔ははしゃいでいたではないか、……クー・フーリン」
「……おまえな。こういう時だけそういう呼び方すんなよ?」
襲うぞ?と煙草をぴたりと止めて真顔で言ってみせるランサーさんに同じく真顔で何故だろうか、と言ってみせるエミヤさん。なぜだろうか、じゃねえよ。そう言うランサーさんに尚も首を傾げるエミヤさんでした。
「襲う、とは。……そうか、ランサー」
「は?」
あ、また戻りやがった。
そうつぶやいて再び煙草をゆらゆらし始めたランサーさんに、にっこりにこにこ微笑んでエミヤさんは。
「そうか、ランサー。君もしたかったのだな?」
「だから、何を」
いかがわしいことを口にするのも辞しません。そんな顔のランサーさんに、エミヤさんは尚もにこにこピュアスマイルで。
「ほら、あーん」
「あーん?」
かさかさ。きゅっ。ぽんっ!
「君も、したかったのだな」
ハロウィンが。
「…………」
「そうだな、君も昔は私を連れてよく近所の家を連れ回してくれたものだ。おかげで当日は戦利品が抱え切れないほどにたくさん……」
「エミヤ」
「うん?」
「あのな」
「うん、」
にこにこ。
「…………」
「…………」
だーめだわ、こりゃ。
だなんて顔でキャンディをがりりっ、と齧ってランサーさんは立ち上がり。
「また夜に来る。その時は他にも甘いもん、用意してくれてんだろ?」
「? うん、」
「ならその時のが得だ。じゃあな」
すたすたと居間を後にしてしまったのでした。幼馴染み対決――――エミヤさんの勝ち。



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