少女剣士が狂戦士と対峙する。しん、と静まりかえる周囲、そして緊張感。掛け声と共に両者は雄叫びを上げて互いに突進する。
ぶつかりあう剣、鋼の肉体。パワーで圧倒的に劣っていると思われる少女剣士はそれでも狂戦士と互角に戦っている。だが、どうしても敵わないのか。体力はじりじりと減っていく。
「今だ!」
高く叫ぶ声がした。と、少女剣士の体が光り輝く。
一段、二段、三段、打ちこまれていく見えない剣。それは乱舞となって狂戦士を切り刻む。ざ、と砂煙を上げて少女剣士は着地した。
ぐらりとかたむく狂戦士、その巨体は倒れ、二度と立ち上がることはなかった。
―――――1P WIN!
「やったあ!」
高い声の持ち主……セタンタが歓声を上げて、ため息をついたエミヤに抱きつく。あまりの勢いに手からコントローラーを取り落としてしまったエミヤはそれを拾おうとしたが、ぐりぐりとセタンタが頭を擦りつけてくるので苦笑して、そのままにしておいた。
その隣であぐらをかいたランサーは煙草のフィルタをがじりと噛むと、あーあーと情けない声を上げてコントローラーを放りだした。
「今だ! じゃねえよ。うるせえんだよガキ黙ってろ邪魔すんな」
「どんだけ悪口言えば気が済むんだよおとなげねえな」
険悪に睨みあう兄弟。まあまあとあいだに入ったエミヤは、四つの赤い瞳に見つめられながらも口を開く。
「たかがテレビゲームだろう。そんなに……」
「たかがときたか」
ランサーはふてくされたような面持ちで火のついていない煙草のフィルタをまた、がじりと噛む。エミヤは目を丸くした。
ランサー?と怪訝そうな声でその名前を呼ぶ。
「勝者さまは余裕があっていいよな。敗者の気持ちなんか考えもしねえんだろ」
「な……」
あからさまに動揺するエミヤ。頭の後ろで腕を組んでがじがじとフィルタを噛むランサーにしがみついて、懸命にそうではない、だの、私はそんなつもりでは、などと言い募る。だがランサーは聞き入れようともしない。
さきほどのセタンタではないが、本当におとなげない。
「大体おまえ、アレだ。攻撃食らうたびに変な声出すのが悪い」
「出していた……か?」
「ああ出してたな。あんとかうんとかおまえなんだありゃ。嬌声か。オレなんかしたか」
「きょうせい?」
「セタンタ! 聞いてはいけない!」
いそいでセタンタの耳を塞ぎにかかるエミヤ。きょとんとしながらもされるがままのセタンタ。それまでの不機嫌から打って変わって、にやにやと笑み崩れるランサー。……本当に、おとなげない。
エミヤは真っ赤になってそんなランサーに向かって怒鳴る。
「ランサー! こ、子供の前で、だな、そんなふしだらな言葉を!」
「いいじゃねえか別に。そいつだっていつも言ってるだろ、子供じゃねえ、子供じゃねえ、ってな」
「そういう問題ではないだろう!」
「―――――それじゃ」
こそこそ、と膝でエミヤのそばまでにじりよると、ランサーはその耳元でささやいた。
「そいつがいないところでなら、いいのか?」
これ以上赤くなるだろうか。
というような頬がさらに赤くなった。
「この……っ」
叫ぼうとしたエミヤの手が、急に軽くなる。何故と思って見てみれば、おさえていたはずのセタンタがいない。
「……ってえ!」
絶叫に視線を向ければ、いつのまに抜けだしたのかセタンタがランサーの指先に噛みついているところだった。
「セ、セタンタ!」
がるるると唸る子犬。いや、セタンタ。
「こら、やめないか! セタンタ!」
「なんで止めるんだよエミヤ! バカ兄貴がエミヤになんか言ったんだろ! だからエミヤ」
「大丈夫だ! なんでもない、なんでもないからやめるんだ、セタンタ!」
「っざけんなガキ、よし来い。きっちり白黒つけてやるからかかってきな」
「ランサー!」


注意。
ファイトするのは、ゲームの中だけにしましょう。
リアルファイトは、よくありません。



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