「メイド喫茶?」
眉間に皺を寄せてエミヤは言った。
セタンタは臆することなくうん、とうなずく。揺れる赤いリボン。
「……また、学校での話で出たのかね」
「うん」
どんな小学校だ。
それとも、エミヤが知らないだけで今の小学校はこれがデフォルトなのか?いや、そんなはずは……ないと……思いたい……。
「行ってみたいと? セタンタ」
「いや、そうじゃないけど。なんとなく気になって」
どんなとこなのかな。
エミヤ、知ってるか?
問われてしまって困った。知らない。そんなものは知らない。行ったこともない。テレビのニュースでならちらりと見たことがあるが、本当にちらりとだ。確かかわいらしい服を着た女性が電気街でティッシュ配りをしていたっけ。
仕事のことで護衛に呼ばれたので、そこで電源を切ってしまったのだ。
見ておけば、よかったか?
悩むエミヤに、セタンタは言う。
「エミヤも知らないんだ……」
すげえ、と。
真面目な顔をしてにぎりこぶし。なんだか背景には炎。がおー、と子犬が吠えている。
「済まない」
「な、なんで謝るんだよ! エミヤは悪くない!」
なんとなく悪いような気がして頭を下げれば、炎と子犬の幻影は消えた。だけどまだにぎりこぶしはほどかれないまま。
そんなに興味があるのだろうか。
よくわからないが調べて連れていくべきか、と思い悩み始めたそのとき。
「連れていく必要なんかねえぞ、エミヤ」
「ランサー」
そう、いたのだ。
ごろりと寝転がったランサーはテレビドラマの再放送を消してつぶやいた。
「なんでだよ!」
当然、セタンタは噛みつく。だがランサーは飄々としたまま、よっと体を起こして。
「おまえ、毎日体験してるようなもんなんだぞ」
「え?」
ぽかんと目と口を丸く開けたセタンタに、ランサーは指折り数えて。
「帰ってきたら“おかえり、セタンタ”と出迎えの挨拶」
―――――確かに。
「でもって、最高に美味い菓子が出てくる」
―――――た、確かに。
「サービスは満点」
―――――確かに!
「出かけるときには“気をつけて行ってくるんだぞ”プラス満面の笑みだ」
ランサーは半眼で弟を見た。
「おまえ、これだけのこと毎日タダで体験しときながらまだそれよりレベルの劣るエセメイド喫茶に行きてえとか言うのか?」
殺されるぞ、半殺しじゃなく皆殺しだ。
煙草に火をつけるランサーの前で、ほう、とセタンタはため息をついた。
「エミヤ……」
そのあまりにも輝く瞳に、やや気圧されながらもエミヤは言う。
「な、にかね」
「エミヤってすげえメイドだったんだ……!」
「いや、それは違うと思うぞセタンタ!」
「まあやってることはほとんど変わらねえよな」
飯作って?掃除して、洗濯して?
お出迎えお見送りは完璧?
「……メイドだな」
「……メイドだ!」
「ランサー! 君、悪い冗談はやめたまえ!」
オレの恋人はメイドさんだったのだ!
叫ぶエミヤを憧れの瞳で見つめるセタンタだった。



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