「エミヤ、ただい―――――」
居間に気配がしたので、部屋ではなく居間を訪れたセタンタはぽかんと目と口を丸くすることになった。
「ああ、おかえりセタンタ」
大きな板を持って微笑むエミヤ。その片方をランサーが持っている。居間の中央にはふとんをかけられた、
「コタツ!」
「うるせえ、叫ぶな。興奮した犬かてめえは」
「兄貴だって犬のくせに!」
「オレは猛犬だからいいんだよ。格好良いからな」
「なんだその理屈!」
「ランサー、そろそろ腕が……」
ああ、おまえわりかし非力だもんな、と言いつつランサーは作業に戻る。セタンタからすればエミヤはそう非力ではないのだけど、くやしいが凄い腕力を持つランサーからしてみれば誰も彼も非力らしい。誰に対しても“赤子の手を捻るように”という言葉を使えるのは、町内ではランサーくらいではないのではないだろうか。
当然、正月の勝ち抜き腕相撲大会ではいつもランサーが優勝する。
板を置くとそれは目に見えて炬燵になった。橙色のふとんはあたたかそうで、セタンタはわくわくしてくる。
エミヤはちゃぶ台の上の菓子皿を持って、炬燵の前までやってくる。
「昼間も冷えこんでくるようになったからな。昼間蔵から出してきれいにしておいた」
「サンキュ、エミヤ!」
しっぽを振りながらセタンタははつらつと礼を言った。エミヤは本当に気がきく。リョウサイケンボというのは、エミヤのような人間のことを言うのだろうと内心でセタンタが思っていると、ランサーがさっそく炬燵にもぐりこんでいた。
「あ、ずっりい!」
初コタツ!と叫んだセタンタは、まだ菓子皿を手にしていたエミヤの腕を引いて急かす。実はセタンタも早く炬燵にもぐりこみたかったのだが、エミヤを置いて先に入ることは出来ない。
何事もエミヤと一緒。それがセタンタの信条である。
「な、エミヤ、早く!」
「わかったわかった」
微苦笑するエミヤは、菓子皿を置くとふとんの中に足を滑りこませた。セタンタもすぐそのあとにつづく。


ほんわり。


「……わー……」
もぐりこんだとたん、体を包む暖かさにセタンタは声を上げた。じわじわと浸透してくるような暖かさ。これぞ、コタツ。
「やっぱりいいな、コタツって」
板に頬をつけてうっとりすれば、エミヤがああ、とうなずく気配がする。
「暖房もいいが、私は冬はやはりこれだと思う」
「同感だ」
「オレも」
さっそく菓子皿の中の煎餅に手を伸ばすランサー。セタンタはみかんに狙いをつけた。
そのときだ。
なおん。
「あ、こねこさん」
廊下からやってきた小さなこねこさんは、居間の中央に鎮座する炬燵を見て何事かと目を丸くしている。セタンタは彼に笑いかけ、こいこいと手招きをした。
「あったかいぞー」
「そういや、あれだ。猫は炬燵で丸くなるっていうよな」
ランサーは大して興味もなさそうに煎餅を齧りながら言う。そうして。
「だからおまえも炬燵が好きなのか?」
「は?」
エミヤはきょとんとこねこさんのように目を丸くした。セタンタも目を丸くする。
「なんで?」
「何故だ、ランサー」
「なんでもねえなんでもねえ」
くく、とおかしそうに喉を鳴らしてランサーは右手を振る。首をかしげるエミヤの代わりにではないが、セタンタはぷうと頬をふくらませた。
「エミヤを馬鹿にしたら許さねえぞ、兄貴!」
「だからなんでもねえって言ってるだろ」
「こら、喧嘩はやめないか、ふたりとも」
そう言い合うあいだにもとことことこねこさんはやってきて、炬燵の中に入りこむ。中で小さくなあん、と鳴く声が聞こえて、くるりと丸まる気配がした。
三人は顔を見合わせてから、視線を炬燵へと向ける。
そして。
誰からともなく、笑い声を上げた。



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