風呂上がりのホットミルク。
ほこほこと同じように湯気が立っているセタンタの髪を拭きながら、エミヤはテレビをつけた。ふうふうと息を吹きかけてミルクを冷ましているセタンタがカップを揺らして中味をこぼし、火傷をしないように静かに、ゆっくりと青い髪を拭く。
石鹸の匂いと甘いミルクの匂いが混じって、まるで菓子のような匂いがする。
ふと自分も同じ匂いがするのかと思ったらおかしくなって、そっとエミヤは笑った。
「エミヤ?」
「ああ、いや、なんでも」
なんでもない、と笑いを堪えながら言う。首だけで振り返ったセタンタは不思議そうな顔をしていたが、そっか、と納得したように言い、にっかりと笑った。
この子供は本当にいい顔で笑う。自分が子供のときにはこんないい顔では笑えなかった、とエミヤは思う。
笑えるようになったのは“彼ら”のおかげだ。この子供にも、そんな存在があればいい。
「学校は楽しいか?」
「うん!」
「そうか」
「エミヤ」
「うん?」
「オレ、毎日が楽しいんだ」
エミヤは?と聞いてくるのに、微笑んで答える。
「楽しいよ」
「本当に?」
「本当だ」
「そっか」
幸せそうに言うから、エミヤはうれしくなる。毎日いろいろなことがあるけれど、本当に楽しくて仕方がない。
昔からは想像出来ないほど笑ってばかりだ。
「オレさ」
頭を拭かれながらセタンタが言う。小さな頭が揺れる。
「エミヤがそう言ってくれるとすごくうれしい」
エミヤは手を止めた。
するとその隙をついたかのようにセタンタが振り返って、エミヤの顔をのぞきこんだ。まじまじと見られ、エミヤは少々とまどう。
「セタンタ?」
「うん、」
頬にひたりと当てられる手。
両側から包みこむようにして笑って、セタンタは告げた。
「今日もオレの大好きなエミヤだ!」
安心した、と。
言って、セタンタはエミヤの頬にくちづけをする。
軽いそのくちづけは素早く済み、まばたきの間に終わった。
へへへ、とわずかに頬を湯上りのせいではなく赤く染め、セタンタが照れ笑いする。エミヤ、とささやく声。
そのまま抱きついてくるから、エミヤは少し呆けたようになりつつもその体を抱き返す。
あたたかい。
ああ、
「私も、」
君を好いているよ、セタンタ。
そう言って、エミヤは目を閉じて丸い頭を撫でた。
テレビは穏やかに明日の天気を知らせていた。



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