それは、セタンタ、エミヤ、ランサーの三人で夕飯をとっていたときのことだった。
この邸宅では特に食事時にテレビをつけることはご法度ではない。ということで、そのときもテレビのスイッチは入っていた。
勧善懲悪ものの時代劇。某ご老公が印籠を出したところで、ランサーが茶碗を手にしたままぽつり、と言った。
「あのよ」
「どうした? ランサー」
「いや、思ったんだが」
「なんだ、君らしくもない」
はっきり言いたまえ、と言われ、それじゃ言うが、とランサーは口を開く。
「これ、肝心の印籠出す前に叩きのめされたら面白いと思わねえか?」
「―――――な」
セタンタのおかわりをよそっていたエミヤが、ぽろりとしゃもじを落とす。慌ててセタンタはそれを受け止めた。
なあん。
ナイスキャッチです、というようにこねこさんが鳴く。
「そ、それでは話の筋が……」
「たまには悪役が勝つのも面白いんじゃねえの?」
「そんなことはない!」
まずい、エミヤにスイッチが入ってしまった。
セタンタはしゃもじを盛った、いや、持ったまま思う。エミヤはヒーロー物に代表される勧善懲悪ものが好きだ。ある種、病的に。
そのような存在に憧れがあるのだと以前に聞いたことがある。
これは秘密だぞ、と言われたから誰にも言ってはいないが。恥ずかしいらしい。かわいいのに、とセタンタはどうしていいのかわからずぼんやり考える。
「ランサー、君な。世界というものをわかっていないのだよ、君という人は」
エミヤ、ちょっと絡みモード。
ランサーはそんなエミヤを面白そうに見ながら、そうかあ?とつぶやく。
「そうだ。いいか―――――」
「その話、長くなるか?」
「ああ、なるとも」
「それじゃよ、あとでゆっくりと教えてくれや。おまえの好きな勧善懲悪ってもんと一緒によ、心ゆくまでふたりっきりで……な?」
「いいだろう。みっちりと……」
「だめだ!」
セタンタは絶叫を上げる。にやにやと兄は笑って、エミヤは不思議そうに、それぞれそんなセタンタを見やる。
「セタンタ?」
「おう。どうした、ガキ」
「だめだ! そんなの、ふたりっきりだなんて絶対にだめだ!」
「なんでだよ。話するだけだろうが」
「それでもだめだ!」
セタンタはしゃもじを放り投げるとエミヤに駆け寄っていって、ぎゅうと抱きつく。
エミヤは目をぱちくりとさせた。
「セタンタ」
「エミヤ、行っちゃだめだ! 行ったら最後、なにされるかわかったもんじゃないぞ!」
「だから言ってんだろ、ガキが。ただゆっくり話するだけだって、よ」
「なにをゆっくり話すのか知れたもんじゃねえ!」
おおよそ子供らしくない叫びを上げたセタンタだが、彼は特に意識していなかった。意識より怖い無意識。
「―――――あっ」
「あ?」
「あ?」
突然つぶやいたエミヤに、兄弟がそろって声を上げる。赤い目が二対、エミヤを見る。そこには。


「決めシーンが終わってしまったではないか……!」


ふくれっつらをする、エミヤの姿があった。
こうなるとゆっくり話など言ってる場合ではない。兄弟はそろってエミヤをなだめるのに必死になった。
それから、ランサーがその番組の最中に余計な口を出すことはなくなったという。



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