帰り道で、見知った顔と出会った。
「―――――あ」
向こうも気づいて、笑顔を向けてくる。軽く手をひらひらと振る様はたいそう可憐だった。
「セタンタくん、今帰りなの?」
「うん」
ランドセルを背負ったままでうなずくと、中味が揺れてかちゃかちゃ鳴った。そう、と微笑んだ少女の名は間桐桜。隣には彼女の親友であるメドゥーサ、通称ライダーの姿もある。このふたりは大親友と言っていいほど仲が良く、いつでも一緒にいるから特にめずらしくはない。
けれど道でばったり遭遇するのはめずらしくて、セタンタは首をかしげて桜にたずねる。
「桜とこんなとこで会うの、めずらしいよな。ライダーとふたりでどっか行くのか?」
商店街は逆方向だ。セタンタが背にした道を向かってたどりつくところと言えば―――――。
「そうなの、今からライダーとふたりでね、」
うんうんと話を聞いていたセタンタは、次の瞬間しっぽをびよんと逆立たせた。


「キャスターさんのところへ行くの」


「セタンタ?」
ライダーが心配そうに問うてくる。どうやら、しばらく意識を飛ばしていたらしい。柳桐寺の魔女の名になにもかもが吹っ飛んだようだ。知らず後ずさるセタンタは、しっぽを逆立てたままで、
「へ、へえ…………」
なにしに行くんだ?
言外にそうたずねているのがわかったのか、桜はふふふと口元に手を当てて笑う。
「これはね、秘密なんだけど」
ふふふ。
顔を上気させる桜。困り顔のライダー。
「女の子だけの、秘密のお茶会があるの」
女の……子?
固まるセタンタ。桜はいい。ライダーもまあ、セーフだ。しかし、キャスター、は、どうなのだろう、か?
ぐるぐる思い悩むセタンタに、桜は陶酔したように目を閉じてつづける。この少女、少し人の話を聞かない夢見がちなところがあるのだ。
「手作りのお菓子と美味しいお茶を用意して、いろいろお話するの。たとえば、好きな人についての話とか……」
すきなひと。
そこにセタンタは反応した。
「あ、あのさ、桜」
「なあに? セタンタくん」
不思議そうに返してくる桜に、セタンタは両こぶしを握りしめて聞いてみる。だめもとで。
「そのお茶会? ってのさ、オレも行ったらダメかな?」
「え?」
桜は目をぱちくりとさせた。そうして、困ったような顔をする。
「あのね、セタンタくん。ごめんなさい。これはね、女の子だけが参加出来る集まりで……」
「うん、わかってる。だけどオレも行ってみたい。興味ある!」
「えーと、どうしよう」
ライダー、と隣の親友に助けを求める桜。ライダーはどこからか取りだした文庫本を読みながら、長い長い髪をかき上げた。
流れる髪は目を奪われるほど美しい。
「いいのではないでしょうか」
静かに、そっと。
ため息のように彼女は告げた。
「この集まりも両手の指の数を越しました。たまにはイレギュラーがあってもいいのではないかとわたしは思います」
「そう?」
ライダーがそう言うのなら……と桜は頬に指先を当てて首を捻る。
「それに」
「それに?」
「彼には、なによりも大切な想い人がいる」
ぱたん、と本を閉じ。
ついでに瞳も閉じて、ライダーはつぶやいた。
「キャスターも、その想い人の話については興味を持つのではないでしょうか?」
彼女は恋愛話が大好きなことですし。
そう言うと、ライダーはどうでしょう、と本に挟んだ栞を指先で弄ぶ。
「そうね……」
桜はうん、と一度うなずくと、セタンタに視線を合わせて笑いかけた。
「うん、それじゃあ一緒に行きましょうか。セタンタくん」
「ホントに!?」
わーい、と両手を上げて回るセタンタ。ぴたりと回転を止めるとライダーに向かって全開の笑顔で笑いかける。
「サンキュ、ライダー!」
「いえ」
わたしは、なにも。
控えめに微笑んでみせたライダーにつられたように、桜も微笑む。
その場は。
和やかなように、見えた。



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