学校から帰ってすぐ、エミヤの気配がする居間へとセタンタは駆けこんだ。感じられた気配は安らかだ。仕事をしてはいないのだろう。それがうれしくてセタンタは笑顔で襖を開ける。
「エミヤ、ただい……」
あれ?
テレビがついている。違う、これはビデオだ。子犬や子猫たちが大画面でころころとたわむれている。
ひどく愛らしい。
エミヤは膝にこねこさんを乗せたまま、じっと画面に見入っている。
「エミヤ」
「ああ、おかえり、セタンタ」
にっこりと笑ったエミヤの笑顔は、いつにもまして輝いていた。


子犬ころころ。
子猫ころころ。
エミヤはにこにこ。
セタンタは、複雑。
別に、二度呼びかけないとエミヤが気づいてくれなかったとか。そういう意味で複雑なわけじゃない。セタンタはそんなに心が狭くない。……と、思う。
カイショー、カイショー。
呪文のようにとなえて、傍らのエミヤをちらりと見やる。エミヤの横顔はきれいだ。思わず複雑な気分も忘れ、ぽうっとセタンタはエミヤに見入る。かわいいエミヤ、きれいなエミヤ。
ああそういうことか、とセタンタは思った。
「なあエミヤ、」
「うん?」
「エミヤは動物が好きなんだな?」
エミヤはその問いに首をかしげると、やさしく笑って
「ああ」
そう答えた。
「たぶん、エミヤのことをオレが好きなのと同じ……ううん、似たような感じで」
「そうかもしれないな」
「うん、きっとそうだ」
だって、オレのこと好きだって、大事だって言ってくれるときと同じ顔してる。
やさしい顔、してる。
「……セタンタ?」
「え?」
うんうんと納得するセタンタに、何故か心配げな表情を浮かべてエミヤがつぶやく。なんだろう、とその顔をまっすぐに見てなんだ、とたずねれば。
「私は……別に、君を動物扱いしているわけではないぞ?」
子犬だとか、子猫だとか。
セタンタはぱちくりとまばたきをする。
エミヤは心配そうな顔だ。
「…………っ」
セタンタは。
思わず、噴きだしてしまった。
「な」
驚いたように後ずさるエミヤの肩を、笑いながらセタンタは軽く叩く。かわいい。なんてかわいいことを言うんだろう。
そんなの、わかってる。
「エミヤにはさ、好きなものがいっぱいあるけど」
小さな動物だとか、ヒーロー物だとか、家事だとか。
「でも、一番好きなのはオレなんだろ?」
ちゃんとわかってるから。
そう言うと、セタンタはにっかりと笑った。
自信を持って。
エミヤはきょとんとすると。
「―――――ああ」
うなずいて。
「君が一番大事だ。セタンタ」
その答えに満足して、セタンタはうん、と大きくうなずき返すと、
「オレも、エミヤが一番大事だ!」
そう、告げたのだった。



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