セタンタはエミヤとふたりきりでいつものデパートへと足を運んでいた。
デート……ならうれしいが、今日はそうではない。
では、なにかというと。
「そうだな……これと……あと、これはどうだろうか」
セタンタ、君はどう思う?
振り返りたずねるエミヤの顔は生真面目だった。セタンタは椅子に座ってぶらぶらさせていた足を止めて、はっと顔を上げる。
「あ、うん!」
「…………」
エミヤは眉を寄せ、手にしていた箱を置くとセタンタの元へと歩み寄ってくる。そうして、しゃがみこむと首をかしげた。
「やはり、疲れているのではないか? どこか他の……そうだな、屋上で待っていて……」
「やだ! 屋上はあとでエミヤと行くんだ! それでココア飲むんだ!」
「だが……こんなに人出の多いところでは疲れるだろう?」
「それなら、エミヤだって一緒だ! オレは大丈夫だから、エミヤ―――――」
ふむ、と首をますますかしげるエミヤ。その顔をじっと見つめるセタンタ。
ふわりとエミヤは顔をゆるませる。
「ならば、手早く済ませることにしよう」
そうして、セタンタの頭をぽんぽんと叩くとマフラーを跳ね上げ、人混みの中へと戻っていった。
冬のご挨拶。
お歳暮コーナーへと。
「…………」
その隅に設置された椅子に深く腰かけながら、セタンタはため息をつく。大人って、大変だ。
『ああ? 歳暮? だったら商品券でも送っとけよ』
ネットで見たが、それが一番喜ばれるものらしいぜ、とランサーが炬燵に入りながら言ったのに、エミヤは真顔で首を振った。
『駄目だ』
『なんで』
『こういうものは、真心が大事だからだ』
その人のために考えて、選んで、送る。
それが大切なのだとエミヤは言った。
『……おまえらしいな、エミヤよ』
目を閉じてにやにやと笑ったランサーは何故だか、うれしそうだった。
(なんで兄貴がうれしそうだったんだろう?)
セタンタにはわからない。
だけどエミヤの言ったことには一理あると思う。誕生日のプレゼント。あれと同じだ。
真心こめて。
その人のために。
ぶら、と足を止めて、セタンタは混雑している売り場を見た。
エミヤは真剣な顔でずらり並んだ箱を見ている。セタンタにはなにがいいのか、どれがいいのかまったくわからないが、エミヤの頭の中では様々な演算が行われているのだろう。
付き合いが長い仕事先、個人宅、それによって送る物も違う。だから頭を悩ませて考える。
真剣な横顔。
「……くやしいけど」
エミヤの頭を占めるということは、エミヤをいっぱいにするということ。カイショーなしでみっともないと思うが、くやしい。
だけどオレは男だから。
ちゃんとエミヤを好きだから。
「だから、だいじょぶだ」
ぼそぼそとつぶやいてポケットに入れていた飴をぽいと口の中に放りこむ。と、ほっと張り詰めていた気持ちがゆるんだ。
余裕!
くやしがるのは、子供みたいだから。
オレはちゃんと男だから。
子供だけど、男だから、カイショーを持って。
エミヤを見守ろう。
そうしてエミヤが戻ってきたら飴を手渡してやって、おつかれさま、と言って頭を撫でてやるのだ。
そうしたらエミヤはきっと笑うだろう。
うれしそうに。
その顔が見たいから、セタンタは待つ。飴をからころと口の中で転がしながらじっと。
ざわざわと騒がしい店内で、ひとりじっと恋人を待つ。



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