ほわ、と口を開けてセタンタは玄関先に山と積まれた箱を見上げた。お歳暮の季節。仕事先から、知り合いから、半年はこれで暮らせていけるというくらいの物資が邸宅には届いていた。
それでは失礼しまーす、と配達員が笑顔で言う。判子をしまい、エミヤは一礼してそれを見送った。
「今年もまた、壮観だな」
ぺたぺたと居間の方から歩いてきたランサーがあくびをしながら感想を述べた。どうやらまた炬燵で寝ていたらしい。風邪をひくから、やめておけとエミヤは叱るのだけれど。聞いていないのがランサーだ。
したいことをしたいときにしたいように。
割とそんなことを地で行くタイプだったりする。究極のマイペースといっても過言ではない。
……だけど、わきまえるところではわきまえるからまた性質が悪いのだ。
「ビールに牛肉……カニ、ふぐ、梅干か。今年もなかなかじゃねえのか」
「大河たちからは洗剤が来ている。少なくなっていて困っていたところだったんだ」
宝の山かっ。
なんて誰かが見たら言うんじゃないかというくらいのラインナップ。しかしこれだけもらっても大所帯。
傷んだりする心配もなくすぐに消費してしまうから、ある意味安心なのである。
「護衛たちが喜ぶな」
山ほどのビールを見てそう言ったエミヤは食品をてきぱきと台所へ運ぶ。こういうときのための業務用冷蔵庫だ。
「あれ?」
こねこさんと一緒にエミヤの後をついてまわっていたセタンタは、箱の上にちょこんと置かれた封筒に気づく。
なあなあ、と服の裾を引いて訴えた。
「な、エミヤ」
「うん?」
「これ」
―――――桜からか。
つぶやくとエミヤは持ち上げていた箱を一旦下ろし、それを手に取って開封し始める。
中から出てきたのは、
「……なんだこれ」
セタンタが首をかしげた。こねこさんがみゃん?と鳴く。
一冊の冊子。
なるほどとエミヤはうなずいた。
「カタログギフトとは気が利いている」
「かたろぐぎふと?」
「間桐の嬢ちゃんらしいな」
「なあ、かたろぐぎふとってなに」
首をかしげたままのセタンタに、ああ、とエミヤは答えた。
「普通の歳暮と違ってな。このカタログに載っている品をもらった側が選ぶことが出来るのだよ」
「へえ」
初めて聞いた、と目を丸くするセタンタ。
「それって好きなもんがもらえるってことだよな?」
すっげえ!
ぴょんぴょんと跳ねてセタンタは叫んだ。桜すっげえ!かっこいい!
何が格好いいのかはわからないが、それはセタンタの中ではかなりの高評価なのだろう。
目を輝かせるセタンタに苦笑すると、エミヤはあらかたが片づいたら見てみよう、と下ろした箱を持ち上げた。
セタンタはぐんぐんとうなずき、自分でも持ち上げられそうな箱を探して声を張る。
「オレも手伝う!」
そうして、あらかたが片づいたころ。
居間に三人がそろっていた。
セタンタ、エミヤ、ランサー。
なんで兄貴も?
だとか。
そういうことを言うはずのセタンタだったが、今はカタログに興味津々。ぶ厚いそれをぱらり、とエミヤがめくる。
「やっぱり最初は食い物か」
「やはり決まりごとのようなものなのだろう」
ふむふむと大人たちが言っている。セタンタはうずうずしながら早く先を見せてくれないかなあ、と思っていた。
ぱらり。
「カップか」
「食器類は大抵そろっているからな……」
「でもよ、ペアだぞ。ペア」
「そんなにカップが欲しいのか? ランサー」
そういうことじゃねえけどよ、とランサーはにやにやしている。
ペアという言葉に不審なものを覚えたセタンタは兄をじと目で睨みつけた。セタンタ?と不思議そうにエミヤが声をかける。
「エロ兄貴」
「エロっていう奴がエロいんだよ、このエロガキ」
「オ……オレはやらしくない! 兄貴みたいにエロくもないんだからなっ」
「なあエミヤ、これどうだ。ペアの備長炭入り枕。なんかよく眠れそうじゃねえか」
「無視すんな!」
明らかに面白がっているランサーを揺さぶるセタンタ。だがランサーは我関せずといった調子で、やたらとペアのものをエミヤに薦めている。
セタンタはぎぎぎと歯噛みした。


「―――――この、バカ兄貴―――――!」


その後、一気に不機嫌になったセタンタと余裕のランサーのあいだでバトルが勃発しそうになったが、エミヤの鉄拳制裁によって事前に阻止された。



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