人混みの中だが、花火がよく見えるところがいい。
せっかくアーチャーが誘ってくれたんだし、オレも花火をよく見たい。そうアーチャーに伝えると、奴はにこりと笑ってうなずいた。
レアな表情だ。
「それなら、もう少し何か買ってから行くとするか?」
おう、と答えてとりあえず仲間に連絡を取るために携帯電話をポケットから取り出した。
「夜店の食べ物というのもなかなか悪くない」
だが、セイバーがいたら大変だったな、とアーチャーは笑う。あんず飴を齧りながらそう言えば嬢ちゃんたちは?と聞くと家にいる、という簡潔な答えが返ってきた。
「なんで。一緒に来ようとかそういう話はひとつも出なかったのか?」
「セイバーは興味深そうにしていたのだがな、凛が」
「リン嬢ちゃんが?」
「“邪魔するもんじゃない”だとかなんとか」
なにをだろうな?と首をかしげる。オレは内心リン嬢ちゃんに感謝した。そしてセイバーにもなにか土産のひとつでも買っていってやろうと思う。まあ、ひとつじゃ足りないだろうがそこは気持ちということで目をつぶってもらうとして、だ。
ちなみに夕飯は坊主が作っているそうだ。サクラ嬢ちゃんと一緒に。
「あ、そうだ、イリヤの嬢ちゃんにも土産を買っていってやらないとな」
「もう買ってある」
そう言ってアーチャーが袖から取り出したのはちょうど向かいの店で売っていたクマの形をしたハニーカステラだった。なるほど、あの嬢ちゃんのイメージにはよく合う。
「本当は作り立てがいいのだろうが、花火を見る頃には何にしても冷めてしまっているからな」
「そっか」
笑う。
するとアーチャーはまた怪訝そうな顔をした。
「なんだね」
「いや。おまえ、嬢ちゃんたちのこと話すときすげえいい顔するな、と思って」
頬に触れる。アーチャーは、笑っていた。嬢ちゃんたちの話をするとき、決して明らかにではないが嬉しそうに。
「オレの前でもしてほしいんだがな、そんな顔」
アーチャーはまばたきをする。そしてうつむいて、口の中でなにかごにょごにょとつぶやいた。
「あん?」
「…………」
「なんだって?」
「…………」
まわりの声が大きくて、小さい声だと聞こえない。顔を近づけて聞きなおそうとすると胸に手を当てて押し返された。
「……見せている」
「は?」
あ、四回目。
「…………君にしか見せない顔というものも、私の表情には、あるのだよ」
知らなかったかね?
そのつぶやきにつかのま呆然としていると、どん、という音と衝撃が体に響いた。
わっという歓声。
慌てて空を見上げると、そこには大輪の光の花。
「―――――うわ……!」
思わずまわりと同じように歓声を上げる。
「すっげえ!」
叫んでじたばたと手を振り回す。その手がぱしんと横の手に捕まった。
「こら、人にぶつかるだろう」
「……悪りぃ」
謝って小さく頭を下げる。するとまったく、とアーチャーが鼻で笑う気配がした。
「…………?」
花火が上がる。アーチャーから握られた手はいつまでも離されない。不思議そうに横顔を見ていると、その口が小さく動いた。
もうすこしだけ。
自分で言ったくせに照れて下を向いたアーチャーの顔を覗きこんで、笑った。一瞬の隙をついて髪にキスする。
真っ赤になってこっちを向いた顔に花火の赤が照り返して、ますます立派な赤になったのに、さらに声を上げて笑った。
END