―――――あまり花火はよく見えないが、境内の裏へ。
「なあ、アーチャー」
その手からそっと紙皿を取って、横に置く。また怪訝そうな顔をしたその耳元に向かってささやいた。
「花火がよく見える穴場があるんだよ。……教えてやるから、一緒に行かねえか?」
びくっとアーチャーが肩を揺らす。その耳元で低く笑ってやる。
どうせまわりから見たらただの仲のいい男友達同士だ。ちょっと良すぎるかもしれないが、まあ、知ったことじゃない。
「アーチャー?」
アーチャーは。
うつむいて辺りを少しだけ見回すと、こくりと小さくうなずいた。
「……いい子だ」
境内は思ったとおりネオンも飾っていなくて、薄暗い。英霊の身だからこそものの在り処もわかるんだろうが、普通の人間の目じゃ無理だ。階段へ座ろうと言うアーチャーの手を引いて、大きな一本の木の前まで歩いていった。アーチャーは嫌だとも言わなければ、やめろとも言わない。
いい子だ、と繰り返してまた笑ってみせる。握った手は、夏の熱気のせいだけじゃなく熱かった。
「…………」
木に押しつけるとアーチャーはため息をつく。ん?と首をかしげてみせると、小さくつぶやいた。
「浴衣の着付けを教わってきてよかった」
「誰にだ?」
「イリヤスフィール付きのメイドにだ」
「そりゃ準備万端なことで」
「だっ……」
誰が、と言おうとしたのだろう。だがその続きは口で塞いでしまったので聞こえなかった。
どん、と音がする。どうやら花火が始まったようだ。
やはりここからだとよく見えない。騙したことになるが、まあいいだろうと思う。
だって、気持ちいいんだから。
「……ん……っ……」
浴衣の裾を割って指を差し入れていく。太腿の感触が心地良い。そこばかり撫でているとアーチャーはいやいやと首を振った。
「いやか?」
「いや……だっ……」
「なにがいやだ」
「…………」
「なにがいやだ? 答えてみろよ、アーチャー」
考えてやらないこともないぜ、と意地悪く言う。するとアーチャーは手が、と言う。
「手が?」
「手が、」
「手でばっかり触ってるのがいやか?」
「違う……って、たわけ……!」
騒ぐのは無視して手で触りながら首筋を舌で舐める。少し塩辛い。いつも涼しい顔をしているこいつでも少し暑いんだろうか?それとも緊張?
欲情か?
「あ……う、ん…………っ」
下を触っていた手を口元に持っていくと、濡れた音を立てて舐め始める。あんまり熱心にしゃぶるので何故かと聞いてみる。
すると糸を引きながら指をようやく離して答えた。
「血が、」
「血ぃ?」
「切り傷があって、そこから血が出ていた、から」
「ああ」
さっき包丁で切ったか。小さい傷なんて気にしないから。
「よく見つけたな。……目ざとい奴」
「おまえの……」
「オレの?」
「魔力の匂いがした、から」
もうすでに高まっているのか、途切れ途切れにアーチャーが言う。目はややうつろだ。暗闇の中でもよく見えるいやらしい顔にごくりと唾を呑みこむ。もう、浴衣は着崩れていてみっともないただの布きれになりかけていた。
「まるでオレが躾けたみたいな言い方すんなよ」
アーチャーは非難がましい目つきをしてみせた。
「お、反抗的だな」
ぐいと足の間に膝を入れてやると、思ったより大きな声で鳴いた。
「選ばせてやるよ。前からと後ろからと、どっちがいい?」
花火の音が遠く聞こえる。
だが、それよりも体内から聞こえる抜き差しの音の方が大きく、卑猥だ。繋がった場所から体液がこぼれた。
それがもったいないとばかりにアーチャーの中がうごめく。
結局アーチャーは前からを選んだ。
「おまえの体温を感じたい」
だそうだ。
情熱的だ、と腰を突き上げると耳元で高く鳴く声がする。すでに浴衣は体に絡みつくだけ。
「ランサー……っ、激しい……!」
「ああ? 好きだろ、おまえ、激しいの」
「…………っ」
首を左右に振るのに、呆れたように突き上げた。
「嘘つけ」
「―――――ッ!」
もう声も出ないのか、息を詰める音だけが喉から漏れる。と、肩に軽い痛みが走った。
見ると、アーチャーが歯を立てて噛みついている。耐えられないのか、目には涙が滲んでいた。
「…………」
その頭を撫でてやると、細い腰を抱えなおす。
どん、というおそらく最後の花火の音が聞こえなくなってから、アーチャーはくたくたと体をもたれかからせてきて、鳴くではなくて、泣いた。
END