ええと。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
目を逸らしちゃいました!


あまりにも相手(黒いの)がじっと見つめてくるので、その澄み切った金色の瞳があまりにも光り輝いているので、ランサーは目を逸らさざるを得なかった。だって怖かったし。
大体なんで?なんでこんな状況になってるんだ?よし、思い返してみよう。
――――以下、回想――――
ある日突然、黒いのが襲い掛かってきた。いや、性的な意味でじゃなく。割と本気に、こちらを殺す的な意味で。
そのときに気づいていればよかったのにまったくオレって……いや、自虐(赤いのの得意技)は自分らしくない。やめよう。続けるのは回想だ。襲い掛かってきた黒いのは夫婦剣どころかカラドボルグさえ投影して殺しにかかってくるモードだったので、勢いこちらも相手取る形になって。だって、そのときはこんなことになるとは思わないじゃないか。
『ふふ、ランサー。君が本気になってくれて私は嬉しいよ』
『ハッ。……オレもてめえがマジになってくれて嬉しいよ』
なんて。
言わなきゃ、よかったんだ?
そこで何だかんだ有り得ないけど、(性的な意味以外で!)盛り上がって。
『なあランサー、賭けをしないか。これから私と君で勝負をして、勝った方が負けた方に言うことを聞かせる。単純なルールだよ』
『ああ? んだそりゃ。だが面白れえな。もちろんオレが勝つぜ。それでおまえが永遠にオレの傍に近寄らないように願ってやる』
なんて。
本当に言わなきゃよかったんだ!
黒いのは。
その言葉でにっこりと笑って。
『――――では殺し愛を、しよう』
双剣を舐めてそう、言ったのだ。


それから先は地獄だった。地獄に次ぐ地獄。蹂躙に次ぐ蹂躙。猛攻に次ぐ猛攻、もたらされるのは結果。
……結果、ランサーは負けたのである。


それでどうしてこんなことになっているんだろう。
ランサーは思う。心底から思う。自分の手に収まったごつい鎖。そこから先に繋がるのは、白い首に嵌る赤くごつい首輪。
結果、その首輪を嵌められた形になった黒いのは地面に跪いてランサーを見上げている。その瞳は星々のようにきらめいて。きらきらときらめいて。
白い頬も、何だか、紅潮していた。
『ふう。……私の勝ちだな、ランサー?』
本気で立ち向かったのに。立ち向かったのに負けたし。何故負けたし。ああもうだめだ。(逆レイプ的な意味で)犯される。マジで犯される。肉体的にも精神的にも犯される!
なのに言ったのだ。黒いのは、後ろ手に隠していたブツをじゃらりと出して、にっこりと微笑んで。
『これを私の首に嵌めてくれないか、ランサー』
わらう。
『そして躾けてくれ。私は君のためなら何でも出来るが、さらに君が望むことに従えるような存在になりたい。いや、存在でありたい。さあ、躾けてくれランサー。さあ』
わらって、ずいずいと詰め寄る。
『雌犬になれと言ってくれ。這いつくばれと言ってくれ。ああ、靴先だって舐めよう。君が望むならどんなことだって私はするよ』
『……な、なら、こんな馬鹿げたことは今すぐやめ……』
『ランサー?』
金色の瞳が。
そのときだけ、一瞬血の色に見えたのはランサーの勘違いだろうか。
『もしも私の勘違いだとしたら大変申し訳ないのだが勝者は私だよ? すなわち命令する権利は君にない。君はただ黙って私のお願いを聞くほかないんだ』
お願いだとか何だとか、そんなかわいいものじゃないだろう!
こいつドMなのかドSなのかわからねえ、それとも独りSMなのか?とランサーは思う。サドマゾたあ、あの陰険シスターそっくりじゃねえのかと思ってしまって背筋をぞくりと震わせる。やめろやめろやめてくれ、あんなのはもうひとりっきりでたくさんだ。量産されるものじゃない。
――――以上、回想――――
「さあ、言ってくれランサー。私は君の?」
「…………だ」
「聞こえないよ。もっと大きな声で、もう一度」
「…………だよ」
「もう一度」
「――――〜ッ」
ランサーは愕然として、絶句して。
次の瞬間、息を大きく吸い込むと大声で、
「おまえは、オレの奴隷だよッ!」
「――――ああ」
じゃらり、と。
鎖の音が鳴って、悩ましげに黒いのが身を捩って。
ため息をつき、ランサーの靴先にくちづける。勢い挙動不審になるランサーに向かってにっこり微笑むと、
「……君のその反応ときたら、ぞくぞくとしてしまうな」
ふふ。
微笑って唇をぺろりと舐める黒いのを目の前にランサーは思う。
だれかたすけて。


もちろん助けなど来ずに、ランサーは独り黒いのの“お願い”に従い続ける羽目になるのだった。


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