「ランサー!」


一月二日、夜。
ランサーの部屋に招かれ、敷かれた布団に少々訝しげなものを感じたかと思えば、きん、と耳鳴りがして空間が閉ざされた気配がした。
――――結界……!?
サーヴァントの本能が危険を察知した、けれどすぐに霧散する。
だって、振り返って見たランサーの顔は笑んでいたのだ。
そりゃあもう、「やってやったぜ」というやり遂げた男の顔でもって。
「何をするつもりかね、ランサー!」
半ば布団に押し倒されながら、それでも抵抗しつつアーチャーは声を上げる。結界があってきっと誰かに届くことはない、それは不幸か幸福か。
「何って、姫始め」
「な――――」
それは、昨日アーチャーが危惧していたこと。バイト先で余計な知識を身につけていないだろうかとそわそわしながら元旦を過ごした、けれどそれは杞憂だった。そう、昨日の時点では。
「知ってるかアーチャー? 姫始めってのはな、こいびとたちが初めてやるだけのことじゃねえんだ。日付けがきちんとあってな、それが今日だ」
「な……」
なんでそんな余計なことを。
「ど、どこで知ったのだそんなこと!?」
「聖杯から受け取った」
聖杯め……!!
一瞬、衛宮士郎以上に聖杯の存在を憎しと思ったアーチャーだった。
「だからな、昨日もずっと我慢してたんだ。……覚悟しろよ?」
「覚悟……!?」
ざわっ、と背筋が逆撫でられる。だってランサーの表情ときたら。
端正なその面を非常に雄くさく染めて、べろりと舌なめずりなどしてみせるのだ。ずっと我慢をしていたというその言い草も剣呑すぎてたまらない。
「ラ、ランサー、落ち着け。な? 私は、逃げないから。だから、その、手を……離しては、くれないか、」
「駄目だ。言ったろ? ずっと我慢してたって。昨日朝から夜まで一日中、今日おまえを抱くことばっかり考えてたんだ。正直もう爆発しそうだ」
そりゃあ、一週間レベルでそういった行為はしていなかった。けれど、それがこんな事態を招いてくるなんて。わかっていたら、ゆるしていた。
真正面からゴーサインは出さなかっただろうけど、遠回しにはゆるしていただろう。それを。
「君の都合で、そんなことを言われても困る……!」
と、いうものである。
「……ひっ」
熱い舌が、首筋を舐め上げる。思わず足が攣ったように戦慄いた。かぷかぷ、とそこを何度も甘噛みして、ランサーは熱い息をも吹きかける。
「ひ、あ、あ、あ、」
素っ頓狂な声が喉から上がって、アーチャーは己の頬が紅潮するのを覚える。
「――――ッあ」
その舌がどんどん舌へと下りてきて、裸足の足を舐めて足指までを口内へ含んでいく。たっぷりとしたローションのような唾液が敏感になった親指やそこら中へまぶされるところに至ってはほとんど泣き喚きたい気持ちになってそれでも声を抑えるのに懸命になった。
「ゃ、ランサー、」
体中を舐められる。まるで大きな犬のようなその舌で。
臍だとか、脇腹だとか。敏感なところをしつこくなぞるのは止めてほしい、本当に。
下着の中に収まったアーチャー自身は反応し、露骨に隆起してしまっているのだから。
「ん……安心しろって、いくら何でもいきなり突っ込んだりはしねえよ」
にっこりと、ランサーが笑う。にたり、や、にやり、ではないところが恐ろしい。
逆に取れるからだ。むしろどうとでも取れる。無邪気な笑みを顔では浮かべて、内心ではどんなことを考えているのかわからない。
「慣らしてやる。丹念に、ねっとりな。好きだろおまえ? そういうの……」
「え、」
「何しろ、今年初めてだ。初物はよぉく味わって食うものだからな。そう、よぉ……く、な」
にっこり。
ランサーが笑い、アーチャーは怯える。
そんなの。
安心の材料に、ひとかけらもならない。
むしろ逆だ。
「全身舐めて、指で慣らして、とろとろにして……そんで食ってやるよ、アーチャー。おまえもオレが初物で嬉しいだろ?」
「!?」
意味がわからない。
アーチャーが瞬いていると、ランサーが。
「今までずっと溜めてたの、おまえの中で解き放ってやるよ。今年初めてのオレだ、存分に味わいなアーチャー」
「いっ、」
いらないいらないいらない!
頭の中で叫んだアーチャーだったが、そんな声は当然届くはずもなく。
「いただきます」
そんな時ばかり真面目ぶって、両目を閉じて手を合わせたランサーに。
美味しく美味しくいただかれてしまったのだった。
翌日も腰が立たなくなって、家事に支障をきたすほど。


その代わりにすこぶる機嫌を良くしたランサーがとてもよく働いてくれたのだったが。


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