ばん、とドアを開けると。
そこには偉そうにふんぞり返った、奇妙な格好の男がひとり、いた。
凛は、遠坂凛は呆然としてからもしかしてと気づく。もしかして、これが?これが自分の引き当てたカード?つまりはサーヴァント。
気づけばじわじわと喜びが湧き上がってくる。だがしかし、
「ねえ」
「何だね」
「……天井突き破って落ちてくるなんて、あなた」


少女漫画か何かのヒロインのつもりなの?


しみじみそう言えば男ががたがたがたと体勢を崩す。おかしいな、自分は今、そんなに変なことを言っただろうか?
「言っただろう……」
「やだ! 心の中が読めるのあなた!?」
「口に出して言っていたさ」
ため息をつく男。凛は狼狽する。まさか、余裕を持って優雅たれがモットーの自分が、まさかそんな凡ミス。とは思いつつも、心が素に返ってしまっている点は否定出来ない。むしろどんどん素が出てきている。ヤバい、これはまずい。
でも、だって。
「ある日突然空から落ちてくるだなんて、不思議系少女漫画のヒロインそのものじゃないの!」
「これは君の不完全な召喚によるミスだ!」
「わたしのせいだって言うの!?」
「事実なのだから仕方ないだろう!」
お互いスタンピードして叫びあって。
むうっ、と男は拗ねたような顔でそっぽを向いている。やだ、なんか可愛い……いやいや。それっておかしい、おかしいから、わたし。
「……とりあえず確認するわ。あなた、サーヴァント……ってことでいいのよね?」
「ああ」
「少女漫画のヒロインじゃないのよね?」
「だからそれはないとさっきから言っているのだがね!?」
無理矢理取り繕った形になった男だったが、凛の言葉でそれはすぐに壊れる。がたがたがたっ、またも彼は体勢を崩した。
まったく堪え性のない男である。
「君が非常識的すぎるんだ……」
「また心を読んだというの!?」
「だから口に出していたと!!」
「……オーケー。わかったわ、お互い喧嘩腰はやめましょう?」
ふうっ、とため息ひとつ。喧嘩腰になっている気はないというのに……男がぶつぶつとつぶやいていたが凛は華麗に無視をした。
「あなたはわたしのサーヴァント。見たところ……クラスはセイバーじゃないわね」
「ああ。残念ながらな。私のクラスはアーチャーだ」
「アーチャー」
男――――アーチャーはまたため息をひとつ。不満かね?何だか、一度凛にそんな扱いを受けたことがあるかのようなその反応。
凛は言った。
「そうね。遠坂として最優のカードであるセイバーを引き当てたかったっていうのが本音よ。だけどアーチャー、あなたは“わたしの”アーチャーでしょう?」
奇しくも凛も。
一度、こんな会話をしたことがあるかのような態度を取った。
「それだったら異論はないわ。あなたの力をわたしは信じてる。わたしのために戦って、アーチャー。一緒に聖杯戦争を勝ち抜いていきましょう」
「――――」
アーチャーは。
一瞬、息を呑むような顔をすると、次の瞬間くすりと笑みをこぼしていた。ああ、まったく――――。
「まだ顔を合わせて間もないというのに大した信頼を得たものだよ、私も。ああ、戦おう。マスター、君のために私は戦うよ。共にこの聖杯戦争を勝ち抜いていこう」
瓦礫の上に座り直し、アーチャーは凛に向けて手を差しだす。凛はその手を取るために近づいていく、そして。
少女ながらにがっしりと、褐色の手を掴み取ったのだった。


運命に導かれ今ここに、遠坂凛の元にクラス名アーチャー、英霊エミヤが召喚されたのであった。


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