落下する。
どこまでもどこまでもどこまでも、落下していく。
ひゅるるるる――――。


「どっせい!」


なんて。
「!?」
逞しい声を聞いて、我に返った。
「ふう……」
近くで声がする。すごく、聞き慣れた感じの声だ。それでも今、聞きたい声ではないし。
距離感がなんかおかしいし。
「ねえ、あなた大丈夫?」
「え……」
目を閉じて。
開けてみれば、やはり“彼女”はそこにいた。あかいあくま。
遠坂、凛。
「……って、ええ!?」
「危なかったわね。あのまま落ちてたら、腰を痛めるところだったわ」
いやいやいやいや。
「大丈夫? どこか打ったの?」
「こ、」
「こ?」
「このたいせいはおかしい!!」
思わず発声した言語がすべてひらがなになった。だっておかしいだろう。
たおやかとも言える少女が、自分のような男を姫抱きしているのだ。
「おかしくないわよ。降ってくるのを抱きとめたんだから」
「問題点はそこじゃない!」
「じゃあどこなの?」
「何もかもだ……何もかもがおかしい……」
全てが崩壊している。世界が壊れている。
顔を覆って見なかったことにしてしまいたい。
願い通り召喚されたはいいものの、どうしてこんなことになった。
「顔を打ったの?」
「だからそのパターンはもういい!」
「じゃあ、どうしたらいいのよ」
むくれてみせる顔は可愛いけれど、その前に自分を床に下ろしてほしい。
そう言ったら、駄目よ、瓦礫だらけで危ないじゃない、と唇を尖らせて言われた。
じゃあすっくとそこに立つ君は何なんだ。
しかも若干仁王立ち気味で。
「ねえ、本当に大丈夫? どこか痛いところでもあるんじゃないの?」
「あえて言うなら見えないところが痛い……」
「?」
自称硝子の心が痛かった。
「あ」
「?」
今度はこっちがクエスチョンマーク。気まずくはあるが首をかしげて顔を見ようとすれば、「やだ、」と恥らわれた。ああそうだ、だから早く。
「下ろして……」
「見えないところだなんて、大胆ね! 服の下のどこかが痛いんでしょう? 見てあげられないこともないけど……」
「どこをどうすればそうなった!?」
本当に理解不能だ!
「え……だって、見えないところって」
「もっとたくさんあるだろう!」
「あなたの服、露出度相当低めじゃない」
喧嘩売ってる?ってくらいにね、と彼女は、遠坂凛は言って。
「だから見えないところって判断したの。アーユーオーライ?」
「ノー……」
互いにカタコト英語で会話しあう。
何なんだ、この馬鹿げた茶番は。
「ふん。まったく、非友好的ね」
「それで結構だ。地獄に落ちろ、マスター」


こうやって。
彼女と私の聖杯戦争は、始まろうとしていた。
出来れば最初からやり直したかった。


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