「新年あけまして」
「ああ、おめでとう」
一礼。
「足痺れた……」
さっそく足を崩そうとするランサーを叱って、アーチャーは背筋を正させる。
「しっかりしたまえ。きちんと着物まで着ているのだから」
「むー」
唇を尖らせるランサー。
その唇をちょんと指先で突いて、軽くアーチャーは笑った。
「はい、もう一度」
「はいはい。あけまして、おめでとうございましたー」
また、一礼。
「ということで」
「ん?」
「姫始めしようぜ!」
「ああ、明日にな」
「明日!?」
「元旦は何もしてはいけない日なのだよ。福を流してしまうからな。だから私も家事をさせてもらえない」
少し不満そうに言うアーチャーに、へえ、とランサーが返す。
「嬢ちゃんに言われた?」
「そうだな。少し休めと」
全く凛は……。
ぶつぶつとつぶやくアーチャーに、じゃあ今日は何をする?とランサーが尋ねた。
「そうだな。正しく寝正月でも決め込むか」
「不貞寝?」
「いや、違……そういうことになるのかもしれないけれど」
「そうなんじゃん」
じゃあ一緒に寝ようぜ、とランサーが笑う。え?とアーチャーが言っている間に襖を開けて、毛布を引っ張り出してきた。
「ランサー?」
「ほら、もうちょっとそっち行けよ」
ちょいちょいと肩を指で押され、アーチャーは移動する。
「よーし」
ばさっ、と毛布を被って。
「かまくらー」
「あのな。……かまくらは、雪で作るものだ」
「降ってねえだろ。だから、代わりに」
毛布で作った、とランサーは笑う。
薄暗がりの中。
赤い瞳が、煌めいて。
アーチャーは俄かにどきりとした。
「……目を、閉じたまえ」
「は? なんで」
「眠る時は、目を閉じるものだろう」
苦しい出まかせになったが、ランサーは納得したようだ。
「んじゃ、おやすみー」
そんなことを言って目を閉じる。
アーチャーは安心して、「おやすみ」と返して目を閉じた。
「…………」
「…………」
「……な」
「ん?」
ちゅっ。
「…………!?」
「へへっ」
顔を赤くして目を開けてしまったアーチャーの視界には、悪戯に微笑むランサーの顔。
「な、にをっ、」
「だってよ、チャンスだと思って」
「何が……っ」
「何もしちゃいけねえっつうけどよ。これくらいはいいだろ?」
「――――ッ」
「あいて」
肘鉄を一発脇腹に入れて、アーチャーは丸くなる。
「猫みてえ」
くすくすと笑うランサーの声。
耳を塞いで、アーチャーはまた目を閉じた。


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