大変です皆さん。
「アヴェンジャー、恋とはどんなものでしょうか?」
「大変です。大変です。うちのマスターが色気づきました」
いや、元々惚れっぽいし今さら色気づいたとかねそういうもんでもないんだけどねイテテテテ。
「頭、頭頭割れる割れる割れる」
「ふふ……このまま割ってしまいたい。それにしても吸いつくように私の手にフィットしますね、あなたの頭部は」
「やめてー! やめて人の頭ボーリングのボールみたいに言わないで! 落ち着いてマスター、オレ死にたくない!」
こんなところでお亡くなりになりたくない。今の生活それなりに楽しいのである。マスターをからかったりからかったりちょっと助けてみたり、からかったりからかったり抉るようにからかってみて脇腹ごっそり抉られたり、そりゃあもうバイオレンス。
それに新しいオモチャを見つけたんですよ。マスター以外のね。だからこんなところで余計にお亡くなりになりたくない。
だってもったいないじゃん。ねえ?
「人をからかうのはいい加減にやめたらどうですか。まったく、悪魔というのはこれだから」
「あ、それって偏見だなーマスター。悪魔全員がこんなじゃないのよ。オレが特別なのヨ?」
「知りません。……あなたに相談したのが間違いでした」
ぷいっとそっぽ向くマスター。え、なになに。
「もしかして本気で相談するつもりだったの? このオレに?」
「私はいつでも本気です。手を抜いたりなんだりとそんなことは一度もした覚えがありません」
「堕落とはほど遠いって感じだけどねマイマスター」
しかしこのお嬢さん、まさかの無職。
まさかの無職である。
「……で、なに? 恋とはどんなものかしら、って?」
よければかるーくご相談に乗りましょうマスター?と身を乗りだしてみた。
だって面白そうじゃん。


大変です皆さん。
「ギルガメッシュ? 恋とはどんなものでしょうか?」
「はあ」
このマスターにそんな答えはノーグッドな選択だとわかってはいましたが、あまりにも意外だったので。
その味覚みたいに極端から極端へと突っ走るうちのマスターが“恋とはどんなものかしら?”
だなんて可愛げのあることを言うなんて思えなくて。外見は可愛いですけど、内面にも可愛いところはありますけど、それを越えて余るくらいにとにかく極端なんですからうちのマスターは。
「はあ。じゃありません。せっかくわたしがあなたを選んで質問をしているのですから、それに似つかわしい返答をなさい。あなた英雄王でしょう? 民の悩みには全てを投げ打ってでも答えるべきではなくて?」
これです。これでこそ我がマスターです。
「すみません、マスターと恋というのがとっさに頭の中で結びつかなくて。数秒思考する時間が必要でした」
「あなた、矯正されたいの? ……まあいいわ、あなたのことは後回しでも足ります。彼らの状況にメスを入れていく方が今のわたしにとっては何とも言い難い至上の幸福なのですから」
ひとつ。ここでいいことをお教えしておきますね。
マスターの幸福は、誰かの不幸。これ、覚えておいて損はありません。
けれど、どうして恋とはどんなものなのかという質問からメスを入れるだのなんだのといった不穏な単語が引きずりだされてくるんでしょう。
「ボクよりマスターの方が知っていそうなものですけれど。そういった方向の経験、したことがないわけでもないんでしょう?」
「よっぽど矯正……いえ、去勢されたいのかしら。―――――まあいいわ。あなたへの処置は後でもできますからね。それよりも、彼らです」
「彼ら彼らって、一体誰なんです?」
そう。誰だって、それが知りたいはずです。


「……それって恋っていうのかねえ」
「ですが、ランサーから私は直に聞きました。アーチャーと自分は好き合っているのだと。それは恋というものなのでしょう?」
好きイコール恋。恋愛中ってやつか。
マスターは外見に反して中味が幼くって大変オイシイ。好き合っているから、だから恋愛中!というのはあまりに率直で実直すぎる。
人と人(まあランサーとかアーチャーとかいうのは人間じゃありませんが、サーヴァントですが)が互いに興味を持って一緒にいれば、ちょっとしたことで事情が変わる。ちょっとしたことでどろどろ血みどろ狂気の沙汰だとか、宝具使っての刀傷沙汰にまでなりかねない。
いやそれは大げさかもしんないけどね。
だけど体の関係とかあったらわかんないよ?奴らやっちゃってるかどうかは知らないけどね?
マスターもそこまでは聞けないだろうし、奴らも言わないだろうし。
「で、なんなの? マスターはランサーさんの恋愛事情が気になる?」
なんてったって憧れの英雄だもんね。するとマスターはきょとんと目を丸くして、
「どうしてそんな話になるのですか?」
「え……違うのかよ」
「違いますよ。ただ私は」
本当の恋とは、どんなものなのでしょうかと。
知りたかっただけです、とマスターはつぶやいた。
なんだ。
少しは大人になったのか、マスター。
でも本当の恋とかなんとかいって、まだそんな夢見たこと言っちゃってたら……。
と、考えてて。
イイコトを思いついた。とってもイイコトだ。
「あのな、マスター」
「はい?」


「そう、ランサー。知っていてギルガメッシュ? 最近彼の帰りが遅いのを、その理由を。わたしが何を言ってもうわのそらで、どこか宙を見てばかり。本当に幸福そうで……どうしてくれようかしら」
そんなことを可憐な笑顔で言われても困るんです、マスター。
「というか、近頃帰りが遅いのは知ってましたけどそんな理由があったんですか」
「あら。あなた、同僚なのに聞いていなかったの?」
「人の事情はむやみに詮索しないのがボクの流儀ですから。王ってそういうものなんですよ」
その代わり、頼ってきたら協力する。そういった感じです。
マスターはその言葉になんだか不満そうで、色味の薄い唇をわずかに尖らせて例の言葉をつぶやきました。……ポルカミゼーリア……。年頃のお嬢さんが頻繁にスラングを使うのはいい加減どうなんでしょう。
「それで、恋バナですか」
「? 恋バナ? ……ああ、恋の話、ということ? あなたそんな言葉どこで覚えてくるの?」
「現世の情報に触れていれば自然と覚えます。必要不必要の取捨選択はきちんとしますけど」
「そうなの……」
下手すればこっちより世間の流行り廃りに疎そうなマスターは首をかしげます。そうしていると年頃の女の子に見えて可愛いんですが。
「ねえギルガメッシュ? ランサーとその想い人は、肉体関係を持っていると思う?」
「いきなりまたディープな話題をありがとうございます、マスター」
一応、子供相手なのでその辺は気をつけてほしいんですが、無駄でしょうね。
「どうでしょう。ランサーさんに聞いてみたことはないので」
「なら聞いてみたらどう? あの浮かれようからして、嬉々として教えてくれるかもしれないわよ」
「言いましたけど、むやみな詮索はしたくないんです。話す気があれば自然と話してくれますよ」
これだけは言えます。マスターはランサーさんと同時にこっちにまで何らかのダメージを与えようとしてます。
まあその、それなりに知識としてはあるので大したダメージは食らわないんですが。
つまらなさそうにしているマスターに、一つだけ進言。
「あのですね、マスター」
「はい?」


ランサーは微妙そうな顔をした。それもやむないことである。
最近どう?と聞かれれば一から十まで話すことに迷いはない性格の男であったが、だとしてもその相手は選ぶ。
新入生のランドセルのようにピッカピカの顔をしたバゼットにメモ帳を持って見上げられては、微妙な顔になって言葉を濁すしかないのだった。
「よければ教えてくださいランサー、無理なのなら無茶は言いませんので出来る限りの協力をお願いします」
「あー……うん、あのな?」
言葉尻を濁しに濁すランサー。職場だとか、赤裸々に語る話ではないとか色々あるが。
「…………」
バゼットの隣でニヤニヤと口端を吊り上げているアヴェンジャーとその付近にいる薄笑いを浮かべたカレン、この問題には我関せず、といったギルガメッシュ、そして店の最奥でティ・カップを持って窓の外を見ているアーチャーの前では、“色々と”無理すぎた。
「英雄さんよぉ? うちのマスターに教えてあげたらどうよ、恋っていうのがどんなものか、さ」
「ランサー、わたしもその話題に興味があります。バゼットに詳しく教えてあげたらどうかしら?」
「…………頑張ってください」
「おまえらな……」
ピッカピカのバゼットは何が問題なのか当然のごとくわかっていない。そしてそのような相手を無下にできるほどランサーは情が薄くはなかった。
時間が経つほどに耳までを赤くしたアーチャーの持つティ・カップに細かなヒビが入っていったとしても。


恋とはどんなものかしら?
目の前にいる優等生用でいいから誰か模範解答でも教えてくれ、と途方に暮れるランサーだった。



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