セタンタくんとランサーさんの兄弟ふたりに仕える黒服の護衛さんたちは一人見たら三十人的なレベルで大体がみんな大柄、もれなくサングラスをかけているのでほとんど見分けがつきません。
ですが兄弟はさすが!きちんとひとりひとりを見分けることができます。
ランサーさん曰く「見りゃわかるだろそんなん」だそうですが、普通の人はわからないでしょう。冬木の猛犬と子犬などと評される兄弟ですから野生の勘が働くのかもしれませんね。
さて、この家にはもうひとり護衛さんたち以外の人がいます。
ランサーさんの幼馴染みのエミヤさんです。
エミヤさんは過去に両親を亡くし、他に身寄りがなかったので結果ランサーさんの家に引き取られることになりました。
ランサーさんとセタンタくんの両親はエミヤさんをとてもかわいがり、実の子と同じように育て、エミヤさんは立派に成長したのです。
セタンタくんの教育係と家事担当を同時に務めるエミヤさんは弓の名手で、“アーチャー”と周囲からは呼ばれるほどでした。
護衛さんたちも敬愛の念をこめて彼をそう呼んでいます。
アーチャーさん、と。
護衛さんたちの朝は早いです。
屋敷の奥にある離れからごそごそと起きだしてくるのは日が昇る前から。まだ暗いうちからスーツに着替え、ネクタイを締めます。
サングラスもちゃんと着用して。―――――はたしてまぶしいと思う太陽もないのにそれが必要なのかは知りませんが。
挨拶と点検を短く済ませ、護衛さんたちは決まっている位置につきます。すると台所の方から人の気配。
ですが彼らが慌てることはありません。そこにいるのが誰かはみんなが知っているからです。
「……ああ、おはよう」
今日も早いなと出てきたのはエミヤさん。エプロンをつけて調理器具をいくつか持っています。護衛さんたちはそろっておはようございます、とご挨拶。
「今日も異常はないか。ご苦労様」
「いえ、アーチャーさんこそ」
朝早くからご苦労様です、とひとりの護衛さんが背筋を伸ばして言うと、エミヤさんはそっと笑みをこぼしました。
「私は好きでやっているからな」
これを取り上げられたら困ってしまう。
そう言うエミヤさんは本当に困ったように少しだけ眉を八の字にしていたので、護衛さんはなんと返していいのか戸惑ってしまいました。確かにエミヤさんからお役目を取り上げてしまったら彼を困らせてしまうでしょう。いや、困らせるだなんて甘い。悲しませてしまう。
朝早く起きてランサーさん、セタンタくん、護衛さんたちの食事を作るところからスタートするエミヤさんのお役目。たくさんの家事と雑務とセタンタくんの教育係兼護衛。
働きすぎだという声もないではないけれど、誰ひとりエミヤさんからその役目を奪おうとする人間はいないのが現状だったりするのです。
「そういえば、君」
挨拶を済ませて自分の持ち場へと引き上げていこうとする護衛さんたちのひとりを、エミヤさんが呼び止めます。
はい、と足を止めたその護衛さんにエミヤさんは笑って、言いました。
「上着を貸してくれ。裾が少しばかりほつれている」
口うるさくて済まないな、エミヤさんは言いますが護衛さんはうるさいだなんてちっとも思いません。むしろ故郷にいるお母さんを思いだして胸がきゅっとなる思いに駆られました。
屋敷でのみんなのお母さん役。それがエミヤさんなのです。
他にもたとえば相談に乗ってくれたり。好きなおかずを作ってくれたり。兄弟の喧嘩を止めてくれたりと、エミヤさんは大活躍。
きっとエミヤさんがいなくなってしまったら、護衛さん全員が困ってしまうでしょう。ですから護衛さんのひとりひとりがエミヤさんを体を張って守る所存と言い切れる覚悟を持っているのです。
けれどエミヤさんは充分に強かったりして、なおかつその上に兄弟がそろって彼を守っていたりするのでなかなかその機会は訪れなかったりするのですけどね。
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