冬木に最近、新しい観光?スポットができた。その名も猫パーク。
と言ってもただ単に公園に猫たちが大量に集まってくるだけである。サーカスのようにショウもしないし、猫カフェのように土鍋に入ったりもしない。そうなると公園に猫が勝手に住み着こうとしているだけじゃないか?という輩もいるがそうではない。
この猫パーク、きちんとある男のおかげで規律が守られているのである。数え上げてみるとまず三食の餌の時間・トイレの用意・ブラッシング・マッサージ・体調管理その他諸々。そのある男はたった一人で大量の猫の世話をしていた。
その男の名は、サーヴァント・アーチャーといった。
「猫パークねえ」
バイトの休憩時間、いささか派手なエプロンをつけたままで、青い髪を後ろでひとくくりにまとめたランサーがくつくつと喉を鳴らして笑いながらわずかに先を行くアーチャーに向かってこぼす。
両手に猫グッズを抱え持ったアーチャーはつんと顎を上げ、そんな軽口は知らんとばかりに先を急ぐ。
「あー、ちょっと待てって、おいおい」
「時間がないのだろう、さっさとついてきたまえ。それともここで帰るか? 貴重な休み時間を、何も無理して私に付き合うことはなかろう」
「だからちょっと待てって。なんで無理して付き合うだのの話になってんだよ。オレはオレの意思でおまえについてってんだからよ」
おまえと猫が戯れる光景なんぞ、さぞかしいい絵になるだろうと思ってな。
笑いながら言うランサーに、首だけで振り返ったアーチャーは渋い顔だ。苦虫を噛み潰すまでとは行かないがそのぎりぎり、寸前までの顔をしている。
「君、まさかカメラなんぞ持ってきていないだろうな」
「へ? なんでだよ。カメラなんぞ買う余裕があったらオレは釣り道具の方に回すね。……ん?」
荷物を抱えつつ胸を撫で下ろしたアーチャーにランサーが、
「おまえ、猫とのツーショット写真でも撮ってほしかったのか?」
「違う! 誰が……こら、ニヤニヤするなたわけ! 人を使って勝手に妄想して勝手に楽しむな! 気味が悪い!」
「またまた、照れなくてもいいんだぜ」
「だから違うと言っているだろう!」
猫好きのアーチャーだから猫と写真を撮りたいはずだ、と冗談でか本気なのか主張するランサーを最後には鉄拳制裁で沈めたあと、アーチャーは開けた公園のちょうど中ほどで足を止めた。
いててて、と唸っていたランサーはその背中に鼻っ面をぶつけてうずくまる。一体なんだよ、そう言いかけた顔の中でぽかんと目と口が丸くなった。
「―――――君たち、元気にしていたかね?」
ランサーには決して、決して!
死んでも(死んでいるが)向けない穏やかで柔らかく温かな笑顔を浮かべ、アーチャーは一匹の猫の前にしゃがみ込んだ。にゃあうん、とややかぶせ気味に猫が鳴く。
「そうか、元気か」
ふ、と笑うとアーチャーはその猫の狭い額を指先で掻く。気持ち良さそうな顔をして猫はごろごろと喉を鳴らした。
「…………」
「ん? 今度はここかな? よしよし、じっとしていたまえ」
ここかな?と言うと同時に額から指はごろごろと鳴る喉へ。ごろごろごろごろ、余程気分がいいのか盛大に猫は喉を鳴らす。
ランサーはその光景をじっと見て。
おもむろに後ろを向くと、両手で口をぱしん!と勢いよく押さえた。
う……うおおおお!
なんだあれなんだあれなんだあれ!
可愛すぎるだろ!おかしいだろあれ!いや可愛いのは知ってたけどよ、あれ反則だろ!まともに見れねえって!
誰か責任者呼んで来い!
……と。
興奮しすぎでわけがわからなくなったランサーはぐるぐると先ほどの光景を脳内でリピート再生し続けていた。
にゃーおん、にゃおん、と猫の鳴き声をバックにしながら。
やがて、ランサーの暴走が治まりかけた頃。
「…………?」
ランサーは口から手を離して、首をかしげた。なんだかやけに静かである。猫の鳴き声ひとつしない。代わりにもごもごと何かおかしな声が聞こえてくる。
ゆっくり、ゆっくりと振り向いたランサーの視線の先には。
「○×△□※@……」
「うおおおおい!!」
まるでアリにたかられた砂糖のようだ!
バイト先(喫茶店)には確か茶色い角砂糖もあったと思う!いやそうじゃなくて!
ランサーは混乱する頭を振っておそらくはアーチャーであろう猫の山に向かって呼びかけた。
「大丈夫かアーチャー!」
猫の山の中からもごもごもご、と返事があった。ランサーは舌打ちをすると仕方ねえとつぶやき、手を伸ばすとまずは近場の猫を掴んだ。
にゃおにゃおにゃおにゃお。抗議するように猫は鳴いたがお構いなしだ。またひっつこうとするのを遠くに放り投げることにして、ランサーは次々と猫をアーチャーから剥ぎ取っていく。
にゃおにゃおにゃおにゃお。
「アーチャー!」
取っても取っても猫・猫・猫。ランサーはそれでもくじけず猫を剥ぎ取っていく。また体に飛びつこうとする猫は遠くへ追いやったが、足元に体を擦りつける猫については放っておいた。正直、そこまでかまっていられなかったのだ。
猫・猫・猫。下から取っていってようやく見慣れたアーチャーの顔が出る。ランサーは思わず感極まってその名を叫びそうになった。
そのときだ。
ちゅっ。
「!!」
ちょうど狙い済ましたかのようにアーチャーの唇にくちづけた猫は、そのままざりざりと独特の感触がする舌で薄く開いたアーチャーの唇を舐めだす。ランサーは目前の光景に固まり、アーチャーも動けずにされるがまま。
さりん。
最後の一舐めを終えると猫は満足そうに鼻から息を吹き、アーチャーの腕の中に陣取って丸まる。
ランサーとアーチャーはその様をじっと見つめた。
やがて。
「……あのな。戯れるったって、こりゃやりすぎだ」
「…………」
続けてランサーは深入り注意の禁止令を出したが、アーチャーは上の空で眠る猫を抱えていたという。
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