「脱げばいいんだな!?」
「なんでいきなりだ!!」
開幕からもうどうしようもなかった。
そもそも脱衣というテーマを聞いてアーチャーオルタが黙っているわけがなかったのである。ちなみにアーチャーはどうしよっかな、今さっくり殺っちゃおうかな、後でじっくり殺っちゃおうかな、とウキウキピキピキ考え中である。額に怒りマークどころではない。
聖骸布の裾をまくってベルトごと一気に下の着衣を脱ごうとしていたアーチャーオルタは尻を突きだしたその姿勢のままで、きょとんと自分を怒鳴りつけたランサーを見ている。
「そうか。ランサーも脱がせばいいんだろう?」
「“も”ってなんだ、“も”って! オレを巻き添えにするな!」
「みんな仲良く脱げばいいじゃないか!」
「意味がわからねえよ!!」
もっともだ。
怒鳴ったランサーは頭痛を堪えるようにこめかみに指先を当て、あーうーなどと唸っている。可哀相に。可哀相にランサー。しかし仕方ない、それがラックEの運命だもの。
一方その頃ランサーオルタはというと、知らん顔……というか空に飛んでいる小さな虫など見ている。何をやっているのか、知っているのはおそらく本人だけだろう。
「あー……まあこの対決の結果云々でおまえら、特におまえがオレらに関わらなくなるってんだからどんな内容の勝負でもやるしかねえな。あんまり気は進まねえが……」
「そんな約束はしただろうか?」
「都合のいいところだけ磨耗!?」
「まさか、冗談だよランサー。私が君との約束を忘れるわけがないではないか。来週のデートの約束も、再来週の…………の約束もしっかりと覚えているよ」
「待てよく聞こえなかったところを大きな声で……いやいい! やめて!」
「大きな声が嫌なら耳元でささやこうかランサー……? 君だけに、君だけに聞こえるように……」
「いらねえっつってんだろ!」
さすがに耐えかねたのか、凶悪な顔つきで怒鳴ったランサーにアーチャーオルタの表情がすうっと平坦になる。見慣れないその表情に、ランサーがわずか戸惑いを感じたそのとき。
「ああ……もっとその猛々しい声で私を怒鳴りつけてくれ。体が、特に腰の奥がじんじんと痺れてしまいそうだよランサー」
「なあ、もうオレたち帰ってもいいか?」
涙目でした。
だって怒鳴った相手がものすっごいうっとりしてるんだもの。
「ランサーたちに左右からサラウンドで語りかけられたい……」
「オレの声はアーチャー専用です!!」
「君たち」
必死に怒鳴ったランサーとアーチャーオルタの前を、すうっと銀色の光が通っていった。
二人がそろって見てみれば、そこには夫婦剣を持って微笑むアーチャーの姿。
「痴話喧嘩はいいから、早くやることをやってしまってさっさと帰らせてくれないか?」
「痴話喧嘩!?」
「なんだ、とうとう私たちの仲を認めたのかツンデレ。ランサー、これで邪魔者はいなくなったぞ! さあ存分に愛し合お」
「早くやることをやってしまおう。な?」
フォントサイズ72くらいの地の底から響いてくるような声でした。
ランサーは蒼白というか、日頃より四割増しで青くなっていました。アーチャーオルタはきょとんとしたままです。
ランサーオルタは飛行機雲を眺めていました。
オルターズの凶悪さどこ行った。
「……んで? 何にするんだ、花札か? やるならさっさと親決めちまって……」
「いや、私たちは花札のルールを知らないからな」
「…………根底を覆す発言だな。それでは麻雀でも?」
「ポン! チー! カン! ロン! ツモ!」
「…………」
「…………」
「……なんだ突然」
「麻雀とはこの掛け声をかけながら牌を投げ合うゲームでは」
「ないわたわけ!」
大声で叫んで牌をぐっと手に握り込んだアーチャーに対抗するかのようにアーチャーオルタも牌を握る。あわやスタッフが美味しくいただけない牌投げ合戦が始まろうとしたときだ。
「やめろおまえら! そんな意味わからねえ戦いに何の意味が―――――」
「ランサー、君は黙っていたまえ!」
「そうだランサー、黙っていれば私の生まれたままの姿が見れるのだぞ!」
「うわあああ見たくねえええ!」
「なんだと!?」
アーチャーが牌を握ったまま毛を逆立てる。ランサーはその形相を見て慌ててフォロー・弁解をしようとした。
「違う! アーチャー、おまえじゃなくてそっちの黒いおまえのが見たくねえって言ったんだ!」
「照れなくてもいいんだぞランサー。さっさと邪魔者を始末したら二人で……」
「二人で何!? ねえ何!?」
「…………」
そのとき、ランサーオルタが地面から数センチ浮いているような歩みで三人の元に歩み寄ってきた。ふらふらと蛇行するような歩み。
思わず三人が黙った瞬間、抑揚も何もない声が周囲に響き渡った。
「……最初はグー、出さなきゃ負けよ……じゃんけん、」
「あっ、えっ、あ?」
ぽん。
アーチャー、パー。
ランサーオルタ、ランサー、アーチャーオルタ、チョキ。
「…………!」
さっきのランサーのように蒼白になったアーチャーに、ランサーオルタの平坦な死刑宣告が向けられる。
「負けた奴は……今すぐここで脱げ」
オレはどうでもいいが。
投げやりなコメントに当然、ランサーが食ってかかる。
「どうでもいいってなんだ! オレのアーチャーの裸だぞてめえ!!」
「オレは……マスターの命令でしか動かねえ……」
「え、桜嬢ちゃんの指令なのかこれ……!?」
「それは違うぞ、ランサー」
だ、だよなと苦笑いで言うランサーに、晴れやかな笑顔でアーチャーオルタが答える。
「桜なら脱がした上で触手責めをしてその光景をデジカメで撮ってこいと言うはずだ」
「聞きたくなかった!」
嘘とは思えないのが悲しかった。
エロかっこいい上司・黒桜。
その間にも敗者への責めは続いている。
「早く脱げ。……でないと無理矢理引き裂くことになるぞ」
「じ、じゃんけんで負けたからと言ってはいそうですかと脱げるか! 大体私はこんな茶番に……」
「往生際が悪いな。……なあランサー? ここを引っ張ってくれ、そうすれば破くことなくこの服は脱げるぞ……?」
「な……!」
胸に飾られたお花結びの紐。
体を擦りつけてきながら言うアーチャーオルタを意図的にではなく無視して、ランサーオルタはアーチャーに手を伸ばす。
「……冗談だろう、冗談だな? 冗談はこの辺にして昼食にでもしないか……腹が減っていると人間おかしなことを考えるものでな、」
「……オレの半分は神だ」
そういう問題か。
などと言いたげなアーチャーの胸元に手がかかり、紐がくいと引かれ―――――
「わああああああ!!」
いやーんまいっちんぐー。
慌ててしゃがみ込んだアーチャーの裸体を隠したものの、後ろ姿で“ありがとうございます!”と語ってしまっているランサーであった。
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