「何をやっているんだ、衛宮士郎……!」
切羽詰った、“記憶”にはないその声に振り向くと、やはり切羽詰った顔をした“彼”がいた。
英霊エミヤ。
それに微笑み返して、ひらりと一度手を振る。
「よお。やっと会えた」
「――――ッ、やっと会えた、ではない! 何故おまえがこんなことに……っ、」
「会いたかったから」
息を呑む気配がする。
ああ、たぶんそんな風になるだろう。そんな顔をするだろうと思っていた。
泣き出す一歩手前のような、そんな顔をするだろうと。
それでも。
「それでも、会いたかった」
微笑んで、口にしていた。
どんなにどんなにどんなに、相手を傷付けるとわかっていても。会いたかったから。
その顔をもう一度でよかったから。見られるのなら、同じ場所へ行かないと駄目だと思ったから。
だから目指した。その場所を。肩を並べて立つ、その場所を目指したのだ。
「……どうして、私などに……っ」
“彼”は本当に泣き出しそうだ。そんな顔は望むところではないのだけれど。
目的のためなら、仕方ない。
自分も相当いい性格になってきたな、と内心で苦笑い。
「俺さ、背、伸びただろ? おまえにはまだ勝てないけど、前よりはずっと大きくなった」
「だったら、」
「でも、ここに来ることしか思い浮かばなかった」
きっと。
自分が何かを口にする度、“彼”を傷付けている。
それでも目指したのはここだから。
髪の色はまだ全部違う。瞳の色は片方が同じ。肌の色は斑。そんな自分。
もうすぐ成る。
「私は……オレは……っ」
あ。
決壊、した。
鋼色の綺麗な瞳から水分が溢れて、地に滴る。それを見て、申し訳なくなりながらひどく安心している自分がいた。
まだ大丈夫だ。
もしかしたら。
「なあ」
「なん……だ……っ」
「もしかしたら、さ」
「だからっ、」
「手」
差し伸べる。
ずたぼろの服を纏った腕を、まだ繋がっている左腕を差し出す。“彼”は意味がわからないといった顔をした。
ぱくん、と割った柘榴のように笑った。
「もしかしたら、代われるかもしれないから。手、出せよ」
「――――」
バトンタッチ。
自分が“彼”の代わりになって、守護者というモノになる。
そうすれば“彼”はお役御免だ。
逃げられる。
逃げられる、かもしれない。
絶対とは言えない、半々とも言えない、八割失敗しそうな可能性だけど。
それでも賭けてみたかった。
希望の糸に。
絡め取られて、みたかった。
「……馬鹿野郎……!」
口調が崩れた“彼”が罵倒する。それに笑い返して手を振る。
早くこの手をと催促した。
早くこの手を取って。
おまえは、楽になってしまえ。
俺が、肩代わりしてやるから。
おまえの代わりになってやる。
さあ早く。間に合う内に。
まだおまえがおまえでいられる内に――――!
脅迫するように笑いながら、泣く“彼”に手を差し伸べ続けた。
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