「アーチャー!」
「エミヤ殿!」
「■■■■■――――!!」
「いや最後の彼はちょっと待ってくれ!」
甲冑フル装備で花束とか捧げ持たれてもというものである。全身タイツだったらいいってものでもないが。
あとわんこ属性って言っても狂犬とかはどうかと思うんですよ。猛犬までですよね、せいぜい許せるのは。
ってちょっと、どうして手を握っているのですかこのクランの猛犬は。
「え。そりゃあ、求婚するにはこうするのが作法だろ」
「早い! いくら最速の英霊だからといっても気が早すぎる!」
「えー、早くねえよ? ベッドの中でも……な」
「そんなことは聞いていない!」
「御子殿……?」
「ああもう! ほら誤解した!」
「■■■■■――――!!」
「だからちょっと落ち着きたまえ君は!」
「無理だと思うぞ。バーサーカー的な意味で」
それに、握った花束が武器化していた。“騎士は徒手にて死せず”なアレで。
「頼むアーチャー! オレの嫁になってくれ!」
跪き。
真摯で紳士なまなざしで自分を見つめてくるクランの猛犬、ランサーにアーチャーは持ち前の乙女回路がきゅん、と唸るのを感じる。きゅんきゅんである。きゅるんきゅるんである。
あ……えっと、こんな私でも……?いつ男に戻るかもしれないこんな私でもいいのだろうか……?愛して、くれるのか……?
「ラン」
「そしてそのたわわな乳を揉ませてくれ!」
「我が骨子は捻れ狂う」
カラドボグりました。
零距離射撃で。
「御子殿! 御子殿!?」
「ランサーが死んだ……」
「こ、このひとでなし!?」
というかご自分でやられましたよね!?と叫ぶ正統派わんこ、ディルムッドにアーチャーは手にした弓を下ろしながら。
「ランサーは人ではない。大体神だ」
「神殺しなど余計に行ってはいけないことでは……!?」
「ならば狗だ」
「すごくランクダウンしましたね!?」
「■■■■■――――!!」
「バーサーカー殿、少しは落ち着いていただきたい!」
ツッコミがひとりだと大変だ。
「突っ込んでやってもいいんだぜ。物理的に」
「戦闘続行スキルを無駄遣いするのはやめてもらおうか」
真顔のランサーに真顔で返すアーチャーだった。
「■■■■■……」
そっと。
差し出された花束もとい武器を眺めやって、アーチャーは。
「済まない。いくら私が武器フェチでも花束の格好をしたそれはどうかと思うんだ」
「■■■■■――――!!」
「エミヤ殿、ですからバーサーカー殿を刺激しないでいただきたいと何度も申しましたよね!?」
「私がいけない……のか?」
うっ、と息を呑むディルムッド。伏せられた目、陰が落ちた目蓋、白い睫毛。
彼は心臓がとくんと高鳴るのを感じる。これが……これが!
「欲情だな」
「ここは恋と言っていただけませんでしょうか!?」
いつの間にか復活なう!だったランサーにクリティカルな一言を浴びせかけられ、顔を覆って膝からズシャアと崩れ落ちるディルムッドだった。
繰り返すがクリティカルだった。主に精神的にで重荷。
はらはら散っていった花びらが寂しかった。彼のマスターの頭髪っぽい意味で。
やめたげてよぉ!
「もういい! 乳揉ませろ!」
「最低だな君は!?」
「ついでに尻も揉ませろ!」
「本当に最低だ!」
「おまえの乳と尻がオレの求める母性を刺激するのが悪い!」
「御子殿……」
おずおずとディルムッドが口を挟む。
「御子殿はその……マザコン、なのですか?」
無言。
この先は詳しくは述べないが、ディルムッドが大変な目に遭ったとだけは言っておこう。
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