「この外道共め……! 幼きいとけない子供たちをあのような目に遭わせるなど許せん! 今ここで成敗してくれるわ!」
怒り心頭、といった有様で干将莫耶を手にかっこいいポーズ、を取る五次アーチャーさん。それに四次キャスターとそのマスターは理解不能、といった顔をして。
「ねえねえ旦那、あの人なんでいきなりキレちゃってんの? カルシウム足りてないってやつ? それとも……もしかして二日目?」
「はて、かるしうむ、とは……? それにしても、見ていてあまり気持ちのいいものではありませんねリュウノスケ。あのようにヒステリックに怒るなどと……あの年の男性がしていいことではありません」
「貴様らああああ!」
はいはい自分たちのこと棚上げ棚上げ。
そんなキャスター陣営さんたちにアーチャーはますますぶっつりキレて、ゴゴゴゴゴとどこかの漫画のような効果音をバックに剣を握る手に力を込める。
それを見てもキャスター陣営たちは怖れるどころかしらっとした顔で。
「嫌ですねえ。落ち着きのない輩はこれだから……貴方、少し吊るされて反省したらいかがです?」
「何だと……っ、…………!?」
うじゅるじゅる。
そんな冗談みたいな音が鳴って、アーチャーの腕は不意に動かなくなった。「な、に、」眉間に皺を寄せて力を込めるがやはり動かない。ならばと足に力を込め前へと進もうとしたアーチャーだったが、
「おっと、そうはさせませんよ?」
「――――ッ!」
それで、アーチャーにもわかった。己の腕を止めたものが何であるかが。
異界の生き物――――大きな蛸だか烏賊だかのような触手がアーチャーの足と腕に絡み付いていたのだ。
「こ、の、……ッ」
「おやおや、威勢のいいのはその口だけだったようですね? そうして動きを止められてしまえば何も出来はしない。見ていなさいリュウノスケ、これが最高のCOOLですよ」
「やった! 旦那、また俺に未知のCOOOOOL!を見せてくれるんだね? 待ってたよ旦那ァ! 行け行け海魔ー!」
キャスターのマスターが叫べば、海魔とやらはさらに伸びてくる。粘液をその体から垂らして、アーチャーの体全体を這い、赤い聖骸布を湿らせてそして鎧までてらてらと光らせていく。
「く、この……! 調子に乗りおって……仕方ない! 凛! 衛宮士郎! こいつらを、一刀両断に……」
しろ。
という言葉は、放たれなかった。
じーっ。
「あ……えっと、ええ……何?」
「…………」
顔をうっすら赤くして目前の光景に見入っていたアーチャーのマスター遠坂凛と、五次セイバーのマスターである衛宮士郎。衛宮士郎は鼻辺りを押さえていた。たぶん鼻血が出そうなのを押さえているのだろう。
露骨に自分を助けるだなんて気を起こしていない若者ふたりに一瞬呆然となって、けれどアーチャーはすぐ激を飛ばす。喝を入れる。
「ええい、何をしているのだね凛! 君ともあろうものが……! そのような小僧と同じ反応をするなどと一体何という醜態だ!? いいからすぐこの、気持ちの悪いものを……」
「えー、気持ち悪くないじゃん。むしろ可愛い?」
「貴様の美的センスは最上級におかしいと知るべきだ!」
むう、と唇を尖らせるキャスターのマスター。ねえねえ旦那、とキャスターのローブの裾を引っ張って、
「あのお兄さん生意気だと思わない? ちょっとおしおきとかさぁ、しちゃうべきだと俺は思うんだけど」
「おしおき……そうですねえ、こちらとしてはあまり乗り気にはならないのですが……幼くも愛らしくもありませんし……ですが、リュウノスケの願いだと言うのならば仕方がありません」
キャスターが片手に本を掲げ、何事か呪文を唱える。其れに答えて一気に湧いた、のは。
「何ッ……!」
ぞわぞわぞわぞわぞわ。
無数の触手がアーチャーに襲い掛かる。体を這い、髪を撫で、服を濡らし。まるで愛撫の心得でもあるかのように触手たちはアーチャーへと襲い掛かっていった。マスターたちとサーヴァントたちの目の前で。
「…………ッ、…………!」
口をも塞がれもがくアーチャー、その姿を見てキャスターのマスターが歓声を上げる。
「すげえや! 俺のCOOLとはまた違うけど、これはこれですげえセンスだよ旦那! ねっねっ、何か記録に残すもんないかな、記録!」
「フフ、そう言うと思って用意してありますよ。はい、“はんでぃかむ”ですリュウノスケ、壊さないように注意なさい」
「わーい!」
青年が少年のようにはしゃぐ間にも触手たちはぬらぬらとアーチャーを這い回る。光る粘液。絡み付く、締め上げる。ゆっくりと、じわじわと……。
「…………」
「…………」
それを。
息を呑んで、見守る面子たちがいた。
「…………! ん、んん……っ、んー……っ! んーっ、んふ……!」
言葉を口に出来ず悶えるアーチャー、彼にじっと視線が集まっている。
セイバー、衛宮士郎、遠坂凛、間桐桜、ライダー、ギルガメッシュ、ランサー、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
その他諸々。
「何ていうか……その……」
「わかります……気持ち、すごくわかります……姉さん……」
そうよね桜、そうよね、とがっしり手を握り合う姉妹。後ろではランサーがごくりと生唾を呑んでいた。
もう全員死ねばいい、とかアーチャーは思ったとか思わなかったとか。
「いいよいいよー、お兄さんもっと視線こっち投げてー! うんうん、俺もしかしてカメラマンとかも向いてない? ねぇ旦那!」
「そうですね、死に際の表情をアートとして写し取る職業などあなたには向いていると思いますよリュウノスケ、今度からはアートをこうして作品に残すことも考えましょう」
「旦那は俺のこと何でもわかってくれるんだね!」
嬉しいや旦那、と笑うキャスターのマスターと、同じく天使の笑顔で笑うキャスターのサーヴァント。
彼らはとても一心同体。
ぬるぬると触手責めを受けるアーチャーなど見てもおらずにはしゃいでいる。
アーチャーは思った。
もうこいつら全員殺す。
全員死亡エンドまで、あと数秒……。
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