君はひどい悪趣味だ、最低だ。
まさかこんなことをする輩だとは思っていなかった。


「――――だの言ってた奴はどこのどいつだったっけなあ? アーチャー」
口端を持ち上げ、ランサーは殊更意地悪げに言ってやる。そうすれば快楽の坩堝に取り込まれてしまったらしいアーチャーは声も高く甘く啼きながら、体を揺らしてそれに嬌声で答えるのだった。
バイト代で買ってきたから、これと武装のベルトだけを着けたままでやらせてほしい。
真正面も正面、何のてらいもなく言い切ったランサーに、袋の中味を見て硬直したアーチャーはしばらく固まり。
た、た、た、たわけっ!
そう言って、その卑猥な形状の下着らしきものをランサーの顔面に投げ付けようとして止めた。
ジョックストラップ――――前から見ればビキニタイプの男性型下着に見えるそれは実は後ろから見れば臀部が丸出しになっており、淫靡極まりない光景を醸し出すものとなっている。
ランサーはそれを堂々と「オレが一生懸命稼いできたバイト代で買ったのだから、おまえは着けるべきだ」とか何だとか言いながら、アーチャーをベッドへ押し倒し始めた。 アーチャーは当然抵抗する、当然だ。そんなものを身に着けさせられては敵わない。しかも武装のベルトも着けろ、などとおかしな性癖丸出しな条件付きで!
だが両者の筋力の差は歴然としている。加えてランサーは最速のサーヴァントだ。とにかくてきぱきとアーチャーを抑え付け脱がせてしまって、「はい、ベルトだけ、な」と凄みのある笑顔で微笑んでみせたのだった。
アーチャーはライダーの魔眼のように見た者を石化するといったような効果でもあるかのような赤い瞳に縛られて、う、と押し殺した声を発して。
……これが終わったら絶対に殺す。
だなんて物騒なことを言ってきたのだった、が……。


「随分とお楽しみじゃねえか、なあ」
と、そこでランサーがベッドに膝をつき、後ろから突き上げてやればぎちぎち、とベルトがアーチャーの足を締め上げ音を鳴らす。それに乗るような喘ぎ声。
滑走して滞空する――――そして落ちていく。
そうやって、部屋を喘ぎ声でいっぱいにしていったアーチャーは完全に欲の虜であった。
「……なあ? アーチャー……よっ!」
がつん、と重い一撃。
そうすればアーチャーは、かは、と金魚のように口だけを開けて息を吐き出す。
「おっと」
鍛えられた体躯の割に細い腰を支えるランサーの白い腕は、紅潮した褐色の肌の上でひどく目立つ。違和感と言っていいほど、それは目立つのだった。
「前……すげえ、苦しそうだな」
その形状的に下ろすことなく行為を可能とするため、アーチャーが履かされたジョックストラップは当然のような顔をしてそこを包んでいる。けれど刺激された体が熱を持たないはずもない。けれどランサーはそこを解放してやろうなどとは思わないのか、ただただ言葉と腰でアーチャーを甚振るだけだ。
何度も何度も突き上げる。内を擦り上げて、性感を与え続ける。
「…………っ」
アーチャーは耐え難い、といったように首を振るがランサーは止めなどしない。それどころかいっそう興に乗ったというかのように突き上げの強さを増すばかりだ。
「や、だ、」
「やだ? これが嫌な奴の反応か……おい、」
声が、アーチャーを嬲る。鼓膜を、耳朶を、蝸牛のようなその三半規管までを。
そのせいか眩暈さえ起こしそうに眉間に皺を寄せる姿に笑って、ランサーは腰の動きをいったんゆるゆるとしたものに変えた。
「あ、ゃ、」
「ん? 嫌だって言うから望み通りにしてやったんだぜ? だってのに何だよ、その態度……っ」
「そう、じゃない……っ」
「は、」
きりきりと、きりきりと。
痛むくらいに、口端を吊り上げて。
「じゃあ、どういうことなんだ、よ……!」
ランサーは、いっそう強く腰をぶつけた。
「う、あ……!」
すると上がるのは、涙ながらのアーチャーの叫び。
それを心地良く聞きながらランサーはぺろりと己の舌をなめずる。
「っは、ぅ、ん……っ……」
見えないけれど。
両目を、ぎゅっとつぶって耐えている姿が見える。禁欲的にベルトが巻かれた足が細かく震えている。その上に視線を上げれば、飛び込んでくるのは、
「も……ぅ、許してくれ……っ、ランサー……っ」
「許す? 終わったらオレを絶対に殺す、だとか言ってた奴を一体どう許すってんだ?」
「こ、ろさない、から……っ」
「そっか。ありゃ、嘘だったのか」
「…………っ」
そういう意味ではないと、ランサーもわかっている。わかっていて言った台詞だ。
それでもアーチャーの反応を愉しみたくて、言った台詞だ。
「んな……エロい下着履いてよ、突っ込まれて、啼いて……っ、それで? “殺す”は嘘ですってか?」
「っ、っ、」
「――――通ると、思ってんのかよ」
低く、這うように。
言って、ランサーは腰を突き上げた。
アーチャーの膝が崩れてシーツの上へとくずおれる。自然と尻をランサーの方へと向けて突き上げた格好。
露になった、そこ。
ゆっくりと、男にしては丸みを帯びたそこに視線と手を這わせ、ランサーはささやいた。
「当分離さねえからな、覚悟しとけよ」



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