「……ランサー」
「ん? 何だ?」
「……その」
煮え切らない。
まあいつものことだが、と湯呑みから緑茶を口に含んだランサーは、次に続く言葉を聞いて目を丸くした。
「……できた」
「は?」
何が?
「できた」
「だから、何が」
出来たってんだよ、と心底怪訝そうに聞くランサーに、平らな腹を擦って大きな胸のアーチャーは。
「……子供が。できた」
「……え?」
えええええええ!?
衛宮邸を揺るがすほどのランサーの叫びが、三軒隣など軽く越えて響き渡っていったのだった。


「……えっと、その」
「…………」
「オレの子……だよ、な」
「…………」
こくん、と頷く。やべえ可愛い。
突然ギルガメッシュの薬で女になって数ヶ月、戻る様子を見せないアーチャーにランサーは言った。男の時よりも随分華奢になった、小さくなった体の肩に手を置いて「オレが幸せにしてやるから」と。「だから、オレの女になれ」と。
そしてふたりは関係を結んだ。いわゆる体のお付き合いというものをしたのだ。一度や二度でなく、三度四度五度六度……そりゃあ数え切れないほどに。
下世話な話だが、避妊しない時もあった。アーチャーが「して……くれ……」と言うから。「そのまま出して……くれ……」と言うから。
そんな感じですが、ちゃんと責任は取るつもりでした。というかいつか娶って将来的にも面倒を見るつもりでした。マスターである遠坂凛と、義姉であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンという二大巨頭の障害を越えられれば。
けれど今はまだ、その願いは叶えられずにいる。
「……嬉しい、か?」
「嬉しいって、ていうか嬉しくないわけねえだろ! 男か女か気になってうずうずしてるし、名前はどんな名前にしようか迷ってるし、それにだな、」
「ラ……ランサー……私も嬉しいが、それはちょっと焦りすぎだ……」
まだ、“できた”ということしかわからないのだから。
アーチャーがそう言うと、ランサーは微妙にがっかりした顔をして。
「そっか……」
「…………」
苦笑いするが、内面は嬉しいアーチャーだった。
「それにしても、サーヴァントでも妊娠するんだな……」
ふと真剣な顔でランサーが言えば、アーチャーがぼっと顔を赤くさせる。それに「ん?」という顔をしてみせるランサーから顔を伏せるように下を向いて早口でアーチャーは、
「それはっ、きっ、君の……その……あれ……がっ……特別なんだとっ……思……う……」
「あれ?」
「…………」
こくん、と頷く。そのアーチャーの顔は耳まで真っ赤だ。
???という顔をしていたランサーだったが、はっと思いついたような顔をして。
「あっ! ああっ……あれか……っ!」
「…………」
「、まあ、そーだよなっ! 一応オレ、光の御子だしっ!」
はははは、と空笑い気味な笑い声を立ててみせるランサーだったが、そんな彼の顔も耳まで真っ赤だった。意外と初々しい男、ランサーだった。
「それで……その……」
「うん?」
「いや、何でも……」
「何だよ。気になるじゃねえか、言ってみろって。オレとおまえの仲だろ?」
「いや、でも……」
「いいから言ってみろって!」
半ば急かすようにそう言われ、アーチャーは俄かに戸惑う。そしてさらに顔を伏せて、
「……認知……」
「え」
「認知、して、くれるのかな、と思った、」
…………。
「しねえわけねえだろ馬鹿かおまえ!」
「わっ」
きいいいいいん。
耳をつんざくような大声に驚くアーチャーの両手をぎゅっと掴んで、ランサーは真剣な顔で。
「認知しねえわけがねえだろ! オレとおまえの大事なガキだぜ!? 命に代えても守らなきゃいけねえっつーのに、おまえと一緒に……」
「…………っ」
どきん、と胸が高鳴って。
ぼしゅー、と頭から煙を出したアーチャーをランサーは不思議そうな顔で見てから、己もはっとした顔になってぼしゅー、と頭から煙を出し。
大事に……するからよ……、当たり前だたわけ、という誠に恥ずかしい会話を繰り広げたのだった。



back.