「ん……」
ゆっくりと唇を離し、引いた糸を褐色の指先で絡め取るとアーチャーリリィはにっこりと微笑んだ。
それは満たされた者の笑顔。既に心は満ちていて、それでも相手は、ランサーリリィは彼を満たそうとする。そこにあるのは愛だ。深く、温かな愛。
まさにその名の通り華が咲き誇るようにアーチャーリリィが笑うから、ランサーリリィも幸せそうに微笑むのだ。
「ふふ、くすぐったい」
白い手が褐色の頬に触れて優しく撫でる。肩を竦めてなおも微笑むアーチャーリリィ。その手が首筋に触れれば「あ」と艶やかな声が漏れ、その場を甘く切なく濡らした。
「する……のかね?」
「嫌か?」
「まさか」
そんなこと、あるわけないだろう?
依然微笑んだままでアーチャーリリィが言えばそんなことはわかっていたというかのようにランサーリリィが笑い、体を屈ませると手で触れていた首筋に直接に唇で挨拶のようなものをした。
「ん、っ」
「…………」
緩く流した青い髪が触れて、アーチャーリリィが声を上げる。鋼色の瞳を細めながら今度は彼が手を伸ばし、白く透き通るような肌に触れた。
撫で擦るような動き。その内に指先が青い髪のひとふさを絡め取って、くるくると指先に巻きつけた。
「何、してんだよ」
「君の髪は触り心地がいいんだ」
だから、触れていたい。
素直に吐露するアーチャーリリィに軽く瞠目して、「それならば」とランサーリリィは彼と同じく瞳を細めた。
「好きなだけ、触れてろよ」
「あ――――んっ」
かぷり、と褐色の肌に食い込む犬歯。あむあむと甘噛みするような仕草にアーチャーリリィは高く声を漏らし体を一度、震わせた。目を閉じて喘いで、それから笑う。今度はひとふさだけでなく、多くの髪をその手に取って。
「そこは……弱いんだ」
「知ってる」
だから、とランサーリリィは言って、痕の付いた肌をぺろりと舐めた。舌先でくすぐるような動きに声を上げてアーチャーリリィが笑う。ふふ、と。
「くすぐったいと、言っているのに」
「それだけじゃ……ねえだろ?」
見つめてくる赤い瞳を見返し、うん、と軽く頷いてアーチャーリリィは言った。
「感じて、いるよ」
君だけだから、と告白して首に腕を回し、青い髪にくちづける。唇の先でそれをはむ、と食んで、愛撫するように何度かそうした。
「何やってんだ」
「君の髪は愛しいから……ん、」
笑ってしまったランサーリリィに逆に攻められ、アーチャーリリィは声を上げる。そのまま静かに首に腕を回した形のまま抱きしめられ、白い聖骸布の隙間から同じく白い手を滑り込まされて。
「ん……やっ」
鎧の上から手がなぞっていく、それだけでも感じる。
硬質なはずのそれなのに、ランサーリリィの手は的確にアーチャーリリィの感じる場所を突いた。だから彼は高まっていって、軽くびくびくとその体を震わせることとなったのだ。
「……解ける、だろ?」
「……ああ」
ふっ、とその言葉と共に鎧が消える。すると素肌に聖骸布といった一種倒錯的な姿となって、褐色の肌にひどく白いそれは目立った。
「ふ、ぅ」
脇腹を白い指先がなぞっていく。さらに身を屈めようとするランサーリリィの首から腕をほどいて、愛しげにその様子を認めるとアーチャーリリィは目元を赤らめた。「ん」短い声が上がって胸の尖りをランサーリリィの唇が食む。かと思えば舌で舐め上げられ、間断なく与えられる刺激にアーチャーリリィは身悶えた。震える、体。下にある頭をぼうっとしたような瞳で見て、アーチャーリリィはその頭にてのひらを乗せる。そうして、軽くその頭を抱いた。
「っ……はぁ……」
静かに。
アーチャーリリィの下肢を覆っていた鎧が失せて、そこを守るのは未だ残る聖骸布と何本かのベルトのみになる。ひどく倒錯的な、そんな格好でも、アーチャーリリィは清らかだった。
百合の花、その名が示すように、清らかだった。
「ランサー」
「ん?」
「君の体に、触れたいよ」
私も――――とアーチャーリリィが言って、それをきっかけにランサーリリィの上半身を覆う概念武装が消える。「ほら」どうしようもなく優しい声でランサーリリィは言って、それにアーチャーリリィは今までで一番満たされたような笑顔で微笑んだ。
「嬉しい」
褐色の手が、てのひらが、白い胸板を這う。あたたかい、とこぼしたその声は、ほんの僅かな情欲と途方もない愛情に塗れていた。
赤い唇が、白い胸板に触れる。ランサーリリィはその温度に微笑んで、くしゃりと降りてきた白い頭を撫でた。それはまるで猫にするかのような仕草。
そんなだから猫のようにアーチャーリリィは鳴いて、ぺろぺろと白い肌を舐める。甘い味がするとでも言うかのように。
そっとふたりは、肌を寄せていく。鼓動が引き寄せられていって、触れ合って、溶け合って、ひとつになる。するりとアーチャーリリィの露わになった下肢にしなやかなランサーリリィの手が重なって、抑え気味な嬌声を上げさせた。緩く勃ち上がったそこは白い手でさらに高められていった。くちゅくちゅと音を立て、淫らに、それでも清らかに満ち足りていった。
「ん、っ」
どくん、と白濁がランサーリリィの手に放たれる。さすがに息を乱したアーチャーリリィはことんとランサーリリィの胸板に頬を預けてはぁはぁと間を湿らせる。そんな彼の頭を白濁で濡れていない方の手で優しくランサーリリィは撫で、今度はそっと頭を下に降ろしていくアーチャーリリィのために、必要最低限の下肢を覆う概念武装を解いた。
途端現れた欲望に、アーチャーリリィは唇の先で挨拶するようにくちづける。そのままぬるりと口内に含んで、かすかな声を漏らしつつ愛撫した。
「く……」
低く漏れるランサーリリィの声。ん、ん、とアーチャーリリィは口内で膨れ上がる彼の熱を舌で舐め上げるようにして。
清らかではあるがひどく巧みなその技巧。急がずに、確実に高めていく温かい口内と舌先にランサーリリィは快楽に呻き。
やがて詰めた声を上げると、先程のアーチャーリリィと同じく白濁としたものを彼の口内に放っていた。
「ふ」
唇を離せばその先が糸を引く。ぺろりと出した赤い舌先を白いもので汚してこくこくと喉を鳴らしながら、アーチャーリリィはそっと微笑んだ。
その体を、息を荒げたランサーリリィが同じく微笑んだまま抱きしめる。重なり合う体。移っていくお互いの体温。これから先は――――?
それは、彼らしか、知らないことだ。
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