初めは、軽い発端からだったのだと思う。
「何度も出すと、腰に来て辛いのだ」とつんけんつっぱねるようにアーチャーが言ったのと。
「なら、出さなきゃいいのか」といささか喧嘩腰にランサーが乗っかったのと。
「出来るなら、やってみればいい」と勢いに任せて、アーチャーが言ってしまった、ので――――。
それで。
「も……嫌だっ、辛い……んだ、やめ、っ……」
「ああ? 出さなきゃいいんだろ、出さなきゃ。おまえ自身がそう言ったんだろ?」
何が楽しいのか、一方の手指を体中に這わせてもう一方の手指は奥を穿つ。
そのせいでアーチャーの体は頂点へと追い上げられる、けれど放つまでには至らない。焦らすように、いや、確実に焦らして。
ランサーは、その両手でもってアーチャーを追い詰めるのだ。
「い、いいから、いいから……っ……」
「おまえは嘘つきだからな。そうやすやすと信じられねえよ」
「っ――――!」
また、一度。
びくん、とアーチャーは仰け反る。
「や、ら、」
「ん? 何言ってんのかわかんねー」
るんるんと。
鼻歌すら歌いだしかねない上機嫌さで、ランサーはアーチャーの体に手を滑らせていく。
「いやっ、だ……!」
今度はちゃんと言えたのに。
それなのに、ランサーは止めてくれなくて。
「だから、それも嘘だろ」
それどころかもっと楽しそうに笑って、ゆるゆると、迫るような快楽を与え続けるのだ。
「う、あ、あ、」
「すっげー。指咥え込んでるぜ、アーチャー」
「い、うな……っ」
「指だけでおまえもう何度イッた? ああ……数えられねえほどイイか?」
「んんっ……」
わざとらしく、耳の中に吹き込む。ぞっとするような声。事実アーチャーはぞくぞくと感じさせられて、また緩い快楽に追い上げられた。
嫌だ。もう嫌なのに。こんな責め苦など耐えられない。
いつものようにしてほしい。指だなんて、そんなものでは。
足りない、というのに。
だというのにランサーは聞きなどせずに、聞き入れるだなんてことをせずにアーチャーを追い込む。
出口のない快楽の中へと。その手と指だけで。
自分の服などかけらも乱さず、アーチャーの着衣もほとんど脱がさず。
なのに。
アーチャーは。
「ぅ、く、ん――――!」
空。
吐き出さず、もう幾度目か知れない頂点を迎える。それは悦く、同時に辛いものだ。
体の中に熱がわだかまっている。大きな塊が、吐き出されずにずっと。
いつもならとっくに外へと吐き出されているものが、抱え込まれることで増大して肥大して体の奥で脈打っている。
吐き気を覚えるくらい。
苦しくて、悦くて。どくん、どくん、と繰り返す。
鼓動と同じリズムで、どくん、どくん、と。
「らん、さ……!」
青くて長い後ろ髪を引っ張って訴えようとするが、手が震えてしまってとても行動に移せるものではない。その間にもまた追い上げられた。
許してほしい。これが責め苦だというのなら、詫びるから。
咎があるのだというのなら詫びるから、どうかこの苦しみから解放して。
「――――〜ッ」
唇を噛んで耐えるも間に合わない。また背筋を撫で上げていくもの。強い、けれど解放には至らない性感。
それが涙が浮かぶ、程度では済まないほどに追い詰められるからもう本当にどうにかなってしまう。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ、
もういやだ。
「ん?」
「……む、から……っ」
「そうじゃねえだろ?」
「……ぃ、します……」
「む」
そういうことじゃねえんだけどな、とランサーはつぶやき。
「ま、いっか。貴重だったしな」
今の、と言って唇を重ねてきた。そして、そして。
そして、次の瞬間アーチャーの意識は白く刈り取られたのだった――――。
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