「アンタさ」
青年は、粗暴な口調で始まりを告げた。
「オレの、女になってみねえ?」
白い肌の頬は赤かった。


青年。ランサー、真名はクー・フーリン。
だが彼は正なる存在ではない。平行世界、パラレルワールドからやってきた存在なのだ。
その証拠に外見は第五次聖杯戦争に参加するランサーとは異なる。青い髪、白い肌、赤い瞳は同じであるが髪型と概念武装が違っていた。
さらりとした髪を流し、後ろで括った“第五次のランサー”と、跳ねる髪を纏めるように結んだ“平行世界のランサー”。
年齢も食い違っているらしく、どうやら第五次のランサーの方が大人であるらしかった。どちらかと言えば平行世界のランサーは第五次にマスターとして参加をしている衛宮士郎に近く。
それに因る青臭さからか、アーチャーは彼を敬遠していたのだけれど。


ちらちらと。
平行世界のランサー……年若きランサー……、から視線を感じるようになってきたのがつい先日。
何だろうと思いはしたが話のきっかけもない。向こうからも話しかけてこないので、すれ違っても口を開くことはなかった。
廊下でも。
縁側でも。
居間でも。
どこで、でも。
「あっ」
あっ?
「わ、ぷ!?」
どん、と当たる感覚。しっかりとしたものに顔の前面をぶつけてしまった重み。
いたた、と見上げてみれば、
「――――ッ」
「……あ、」
見下ろしてきたのは年若きランサー。魔女の呪いで女性化し、小さくなってしまった今となっては随分と大きな体格に見えた。
「すま、ない」
慌てるように逃げ去ろうとしたアーチャーの手を、手首を、ふと握るものがあって。
前を向いていた顔をそちらに投げれば――――、そこには、白い手。
やはり。
自分の手首を握る年若きランサーの手は大きく。
顔は、どうしてだか切羽詰っていた。
「アンタさ」
そうして話は、冒頭に戻る。
「女……だと?」
かあっと顔が赤く、熱くなる。怒りに。そして羞恥に。女?女――――?
この身は、性は。現在は確かに女だ。だが心はきちんとした男である。だから、こんなにも心が沸いているのだ。
プロポーズ自体が嫌なのではきっとない。ああ、いや、好ましくはないが。違う、嫌なのは。
嫌なのは、“女”扱いをされたから。
ぱしんっ。
「え……?」
驚いたような顔をする、その顔を睨み上げてやる。
「馬鹿にするな!」
「え、オレは、」
「私は女扱いされるなどまっぴらご免だ! こうして体は女性となってしまったが、男としてのプライドまで消してはいない!」
「……は?」
ぽかんと。
年若きランサーは、目を口を丸くした。
「おと、こ……?」
「そうだが?」
「いや、どう見ても女なんだが」
そこから、懇々とアーチャーは年若きランサーに説明し。年若きランサーは「はあ」「へえ」「…………」と言葉を失っていき。
「……そういうことだ。だから女として私を見ているのなら……」
「ああ、いや」
年若きランサーはバリバリと後頭部を掻いて。
「驚いたけどよ。……オレは“アンタ”が好きなんだ。だから、アンタが本当は男でも何ら問題はないぜ」
「え?」
ぽかん。
今度はアーチャーが目と口を丸くする番で。
「だから、な」
頭を掻きながら手を差し出す年若きランサー。
「オレの。……“こいびと”になってくれよ、な」
白い手に。
褐色の手が重ねられたかどうかは、知れぬこと。



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