「なんでさあああああ!」
いつもとは違う、甲高く裏返ったアーチャーの絶叫が空高く響き渡って消えていった。
征服王イスカンダル。欲しいものは略奪するがセオリー。
が。
「オレは今回関係ないですよねえ!?」
ていうか離せ!アーチャー離せ!
「いやな? 余はそこの褐色のみでよかったのだが、そいつの傍にはいつも貴様がいるのでな」
共に略奪せざるを得なかったのだ、とつぶやくイスカンダル。うーむ、などと言ってはいるがそんなこと突然に言われても、なアーチャーである。
だってそれは。
「そ、そ、そんなっ、」
セット売りみたいに言われても!みたいな感じである。槍と弓でセット、いわゆる槍弓ってやつですハイ。
「今、今はっ、こうやって離れ離れで持ち運ばれているではないか……っ!」
「そりゃあなあ? この方が持ちやすいし運びやすい」
そう。
槍弓ふたりがされている運び方と言えば、イスカンダルの両脇に抱えられた感じであった。
「男としてのプライドがズタズタだ……!」
「? ふむ? 余は特にまだおまえを蹂躙してはおらんぞ、褐色の」
「褐色の褐色のと呼ぶな、私はアーチャーだ!」
「アーチャー……? あの英雄王と同クラスか」
「一緒にするなよ。だからといって一緒にするな、それはとてつもない侮辱だからな」
「おお……アーチャー、あの金ピカを全力でディスってんな……」
思わず手を叩きたくなったがそれどころではない。とりあえず離してほしい、降ろしてほしい、そして速やかにお帰り願いたい。
聖杯のエラーで呼び出された第四次聖杯戦争脱落者メンツ、主に彼らは思うままに生を謳歌していた。
一番はイスカンダル。ゲームにテレビにネットサーフィン。十年前には出来なかったことを仮の宿で思うがままに堪能していた。
そしてそれにも飽きてぶらぶらと散歩をしていたときだ。
初めて、アーチャーと出会ったのは。
「この世も娯楽に溢れてはいたが、真に余に略奪せしめんと思わせたのはおまえだけであるぞアーチャーよ。それを誇りに思うがいい」
「まったく、王というものは皆が皆こうして自分勝手なものなのか……!」
あ、セイバーは抜かして。
などと棚上げするアーチャーだった、それに目頭を押さえるランサーだった。
いや、あの遠坂の嬢ちゃんとかアインツベルンの嬢ちゃんとか棚上げ材料が多すぎだろおまえ、とか何とか。
「とりあえず、イスカンダル!」
「うむ?」
「こうして戦車を駆っているのならば、その座席に私たちを降ろせばいいだろう!? 何も逃げようとはしないさ、私たちは空を飛ぶ術を持たない。“跳べ”はするがこの高度からは叶わぬだろう。だから、」
「だが断る」
「何故……」
がくり、とうなだれるアーチャーに大笑いを返して、なぁにと力を無くした体を抱え直すイスカンダル。
「おまえは油断がならなさそうだからな。こうして抱いておかぬといつの間にか、という隙を突いて逃げ出されそうでならん。だからこうして抱いておる」
「だから、逃げられんというに……」
ぐったり。
心なしか、さらに力を失ったアーチャーに不思議そうな視線を投げるイスカンダルへとランサーが吼える。
「いいから降ろせってんだ! 高度だの何だのは関係ねえ、どんな高さからだってオレはアーチャーを連れて飛び降りてみせる、だからその丸太みてえな腕からオレとアーチャーを離せ、さもねえと……」
「ほう。さもないと、何だというのだ青いの」
「うるせえ筋肉野郎!」
ちょっとばかりオレやアーチャーより筋肉で勝ってるからって威張るんじゃねえぞ!とランサー。仕方ない。
イスカンダルに筋肉量で勝てるサーヴァントというのはなかなかいやしないだろうから。
「キンキンとうるさいのう。うちのもやしには負けるが貴様も口ではやかましい性質か?」
「てめえのところのマスターなんぞ知るか!」
もやし扱いされているウェイバー、哀れ。というかもう十年経っているのだから彼はもやしではない、立派な大人だ。
立派で立派に立派すぎる、大人である。
ただイスカンダルが会ったことがない、だけなのだ。
彼は成長したウェイバー・ベルベットを知らぬ。それだけの話。
「大体な、アーチャーはオレのもんなんだよ! それをおまえが横から……」
「横からも何もない。欲しいものは略奪する! それが我が覇道であり、信念である。だからしてこうやってだな……」
「……ご高説は結構だ。いいから、速やかに、私たちを離さないと……」
もはや投げやりになったのか、例の詠唱を始めようとするアーチャーにさすがのランサーも慌てる。このままでは三人そろって仲良く串刺しだ。ざっくりと名剣魔剣様々がアーチャー・ランサー・イスカンダルに降り注ぐであろう。普段なら術者であるアーチャーを綺麗に避けて降り注ぐだろうが、今は緊急事態。
コントロールを失った秘術は崩壊して、術者へと向かってさえ降り注ぐ。
「いいからすぐにオレたちを離せ! でねえと……」
「でないと、何だというのだ青いの。先程も同じような言葉を聞いたぞ?」
「うるせえな! いいからオレのアーチャーが磨耗しきらないうちにさっさと離せってんだ!」
「……I am bone of my sword」
「ほらあああああ!」
「む?」
その後、きりもみ落下で地面に墜落する戦車があったとかなかったとか。
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